第7話 最大の敵はお国だろ?
東京都中央区日本橋。トランザ・バイ・トクダタワービル。
オープン空間にいくつもの小さなブースが巻貝状に並んでおり、会議主催者がチェアに座り、リモート会議を仮想空間上で取り仕切っている。
奥には山あいの湖畔に模された3次元画像に囲まれたカフェエリアがある。
二人の男が抗菌マイカップを手に丸太椅子に腰掛けている。傍らには自動運転仕様のスタンドカーが立てかけられてある。
彫りの深い男が興奮気味に話している。
「稔さん、レベル5、いよいよ目処が立つかもしれませんよ」
開発責任者であるレスリー・スティーブン。彼の報告に、副社長の徳田稔は顔を顰めた。
「かもしれない? レスリー、知ってるだろ。そういったレポーティングを僕は好まない」
レスリーは表情を改めた。
「失礼しました副社長。言い直します。現時点で当社の自動運転技術はレベル4とレベル5の間で、目下研究中であります」
稔は納得したように呟く。
「そうだったよな。でも、他も似たようなもんだろ」
アメリカの大学でMaster Of Engineeringを取得した二人はトランザ社に来るまでベストフレンドだった。しかし、いまは副社長と開発責任者。ここ日本では上下の関係を重視した。相手があのトクダの御曹司ということも、レスリーからしてみれば軽んじてはならない相手だったろう。
「仰るとおり、各社あのレベル4の実用化には到達しています」
レスリーは傍のスタンドカーを指さした。
「すまない、レスリー、ちょっとタイム」
話の途中だったが、稔が3次元画像の森の中に入っていく。
その向こうに隠し部屋があり、3台のAIドリンクサーバーが並んでいる。そのうちのひとつに稔はマイカップを注ぎ口に置き、顔をミラーに近づけた。AIドリンクサーバーは稔の表情を読み取り、彼の嗜好といまの彼の感情に最も適している飲み物を探し出す。
数秒と経たず注ぎ口からは温かいココアが出てきた。
「グッドチョイスだ」
稔はカップを取り出し、隠し部屋から出た。
稔が丸太椅子に腰を降ろすのを待ってからレスリーはさっきの話の続きを始めた。
「先行しているAI技術と衛星によるインフラ整備、加えて通信速度やセキュリティ面においてうちは他社より秀でています。レベル5に最も近い位置にあると言えましょう」
「それはわかっている。でも最大の敵はお国だろ?」




