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第5話 どうか、私を社長の座から降ろしてください


 確かにこの時のトクダは時代に乗り遅れていた。新興組から遅れて本格的なEV生産を始めたが、目標数のEV生産には達しなかった。EVにおいては、西安汽車やトランスセンドが先頭を走って老舗ブランドの追随を許さなかったのである。

 それでも宝田はEVシフトの旗幟(きし)を鮮明掲げ、莫大な投資をかけて新興組に対抗しようとした。しかし、一旦劣勢に回ったトクダのEVは新興組を抑えることができなかったばかりか、生産効率の差から次第に水を開けられ、やがてはトクダを見限る技術者の流出が始まった。

 これを見た宝田たち経営陣は強い焦りを覚えた。名門の名だけでは、秀逸な人材を繋ぎ止められなくなっていたのだ。

 取締役会で宝田は言った。

「優れた技能を持つ者の賃金を2倍、いや3倍に引き上げよう」

 ニンジンを大きくして技術者の流出を防ごうとしたが、食いっぱぐれのない技術者たちにとってニンジンより欲しいものは自分の技術を活かせる場だった。その環境があれば彼らはニンジンの大きさ問わず集まってきた。

 トクダが技術者を囲おうとしたのに対し、優れた技術者は特定の企業に縛られることを望まず、未来を変えられる柔軟な環境だけを求めた。

 この錯誤もトクダが時代に遅れを取った理由のひとつである。

 ここにきて宝田は、叱責覚悟で清久にまたも相談を持ちかけた。トクダを潰せと言われて以来、清久に相談はしていない。潰せとは新しい一業を為せということだと宝田は理解していた。その一業が見えるまでは助言を求めてはならないと思っていた。が、もう宝田には限界だった。

「会長、このままでは私が本当にトクダを潰してしまいます」

 それは清久が以前宝田に言ったトクダを潰してしまえの意と根本的に異なることを理解したが、清久は黙ったまま宝田の憔悴仕切った顔を見つめた。

 宝田は深々と頭を下げて言った。

「どうか、私を社長の座から降ろしてください。お願いします」

 あの時と同じ会議室にはもう12枚の金縁の額はなかった。


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