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第4話 トクダはいますぐ解散すべきだ!


「では何が必要だと会長は思われますか?」

 清久は一瞬昔の眼光を取り戻し宝田に浴びせかけた。

「どうして俺に聞くんだ!?」

 宝田が怯む。

「なぜ、いまのトクダマンに尋ねぬ?」

「しかし、会長は幾多のピンチを乗り越えてこられました。会長から学ぶべきものはまだたくさんあります」

「この後に及んで何を学びたい?」

「た、例えば、未曾有の事態にどう臨み、どう心胆を鍛えればいいか、など」

「甘ったれるな!」

 清久の怒りの表情を宝田は久しぶりに見た。決して周囲に感情を荒立てない人だった。しかし、宝田にだけは何度かこの表情を見せたことがある。徳田家家訓を(かざ)して自分を一喝したこともあった。それだけ清久が宝田に期待を寄せていたということだ。

 だが、その宝田には創業家に比べ覚悟がやはり足りなかった。

「私にはどれだけ頑張っても創業家ほどのカリスマ性が出ません」

 宝田のうな垂れた姿を見つめていた清久は、やるせなく視線を創業者徳田右京の肖像画に移した。

 清久は自分の社長就任時の会見でこう述べた。

「業を為し報国に身を尽くさむ。トクダが今日有るはこれに尽きる」

 右京のこの言葉は社会に役立つものを作ることで国家に奉仕すること。これがトクダ全事業の羅針盤だと清久は考えていた。

 自分が生まれる前に他界していたこの偉大な創業者に、清久は特別の畏敬を持って接していた。それが徳田にしかないカリスマ性であることを清久自身も気づいてはいなかった。

 これに宝田は苦しんだ。清久は過去を捨てろと言うが、創業家でもない宝田にそう簡単に捨てられるものではなかった。

 カーレーサーにはレーシングロードは見えてもこの先の針路がぼやけて見えていなかったのである。

 しかし、清久は言った。

「もはや、カリスマで経営している場合ではないのだ。だから私は君に託したのだ」

 宝田はこれに反論する。

「ならば、業を為し報国に身を尽くさむから離れてもいいということですか?」

「それはカリスマ性とは違うところのものだ!」

 宝田は意を得たりと呟く。

「仰るとおり、これはカリスマ性ではなくトクダ経営の真髄です。ですが、カリスマ性がなければこの遺訓は引き継げません」

「宝田君、トクダをあまり神格化するな。そこは離れてもいいんだ」

「私が離れても、40万のトクダマンは離れられません。彼らはトクダの名に憧れ誉れを抱いて集まってきたのですから」

 清久が激しく机を叩いた。

「だったら、トクダなど潰してしまえばいい! 過去に縋りたい者たちを救うため、未来の一業を為す者たちを切り捨てると言うなら、トクダはいますぐ解散すべきだ!」

 創業家の眼は怒りで潤んでいた。


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