第21話 ここで働いていて楽しくない
清久は苦悩していた。
(トクダの最大のリスクは私を含め徳田が居続けることかもしれんな)
社長退任時、清久は自分だけ身を引くことでトクダのリスクを軽減しようとした。
しかしいまは、自分たち(・・・・)がいることでトクダは前に進めないのではと思い悩んでいる。稔が悪いわけじゃない。また彼のポテンシャルが問題なわけでもない。ただ、彼もまた徳田だからリスクを広げる可能性がある。
(ハンプスのいうとおり疎開させるべきなんだろうか?)
トランザから稔を離せば、万事うまくいくのなら自分たちがここを退散すればいい。
清久は知るまいが知れば宝田と酒井の画策も自分たちがいることの弊害だと思うに違いない。
トランザが自動運転技術を歩行者に転用しようとしていることも清久は聞いている。しかし、この発想転換もハンプスは受け入れないだろう。稔がトランザにいる限り。
いまトクダは現社長と創業家のレガシーとそのレガシーを信奉する郎党たちの三つ巴になりつつある。
これを解決するにはレガシーを消すのが一番手っ取り早い。ハンプスを潰してはいかん、そう清久は思った。
そこで早速、清久は稔に電話をかけた。彼が要件を言う前に稔から思わぬ言葉が出た。
「ここを辞めようと思っています」
びっくりしたが、体面上、清久は尋ねねばならない。
「どうしてだ?」
内心引き止める意図はないが、息子の意図がわからない。
稔は言った。
「小さくなってしまいました」
「何が?」
「何もかもがです」
「何を言ってるかわからん。ちゃんと説明しろ!」
昔から父と話す時、稔は極度に緊張した。徳田家の伝統がそうさせるのか、父だからそうなるのか、稔にはわからなかったが、自分の思っていることをうまく喋れなかった。だからいつも言葉足らずで父に叱られた。
しかし、この場面そうも言っていられない。稔はいまの自分の思いを父にぶつけた。
「ひとつは、先を見る力です。僕たちの視力は弱く視界はとっても狭い」
似たようなことをハンプスも言っていた。トランザは視野が狭くフューチャーを創れるファンクションではないと。稔の意図するところも同じなのか?
「どうしてそうなったか、理由は簡単です。トクダはトランザを過保護にし過ぎた」
「過保護だと?」
ハンプスに言われるより感情を逆撫でさせられる。
清久が苦言を述べようとする前に、稔はすかさず次のファクターを繰り出した。
「もうひとつは、徳田家家訓の威光です。これに僕はもう忠義を果たせない」
「それも理由があるんだな?」
「はい」
「聞こう」
「成長を阻害しています」
「阻害?」
「ええ」
「どこが?」
「徳田のエゴがあります」
「エゴだと?」
「結局、徳田に返るよう作られている。業を成せばその分徳田の威光が大きくなり、人々はトクダに要らぬ礼讃を送る。それが我々の成長を止めている」
同意できる考えだった。だからこそ清久は稔と共にトクダを去ろうと決めていたのだから。
「そしてもうひとつ・・・」
稔が述べた最後のファクターは清久を最も失望させた。
「ここで働いていて楽しくない」




