第20話 雇われ社長ごときに
本社、役員フロア、その一室。
宝田が郎党の一人と膝を突き合わせて話している。
「トクダは世界企業に成長したが、その紐帯は創業家だ。カリスマ性を大黒柱にした大廈なんだ」
言わんとするは、ハンプスも自分同様、繋ぎ役だということだ。役目が終われば社長の椅子を返上すべきなんだと。
宝田と向き合っているこの郎党、名を酒井隆介という。宝田と同期入社の執行役員の一人である。
「ときどきあるんだ会長には。先が見え過ぎてて俺たちが着いていけないことが。それでも徳田だったらいいさ。どんなに不利な戦でも命を賭して俺たちは出陣する。だがな、あの女は違う。三河の戦の仕方を知らない。あの女のために命は掛けられない。なんで会長はあんな奴に任しちまったんだ!」
「気持ちはわかるが会長のご判断は間違いじゃない。ただ、ハンプスが勉強不足なんだ、トクダという会社のことを」
「それはあんたが教えるべきじゃなかったのか、え、宝田さんよ!?」
酒井にそう言われて宝田は頭を掻いた。
「ごもっともだ。すべて途中で投げ出した俺の責任だよ」
「別にあんたを責めてるんじゃないけどよ」
ばつ悪そうに宝田は呟く。
「しかし、ハンプスがあそこまで急進派だとは思わなかった」
「やっこさん、トランザを本気で潰すつもりらしいぞ」
「させてはならん」
「だよな」
二人の思惑は跡取りを護ることだった。
酒井がニタリと笑う。
「次の株主総会だ」
「大丈夫なんだろうな?」
「算段はできてる」
宝田は黙って頷く。
「トランザ社の整理解雇撤回と、社長の取締役解任、この2議案をよしみの株主から緊急動議させる」
「勝てるのか?」
「雇われ社長ごときに負けるはずがない。こっちには過半数取れるだけの株主がついてる」
「ならいいが」
ハンプスは知るまい。自分に向けて敵対行動を画策している者がまさか自陣の役員であるとは。




