第13話 お家ごっこを喜ぶのは日本だけ
自分の社長交代劇の時と違い、この得も言われぬ退潮ムードと社内にはびこる疲労感を清久はいまのトクダの力だと思った。
(このタイミングでハンプスなのか?)
彼女の器や能力を疑っているのではない。彼の中での計算違いを悔いている。
(宝田の前に送り出すべきだったのか?)
トクダ自動車は清久の社長退任会見からわずか2年で宝田を降板させた。
代わりに社長に就任したのは、トクダ北米法人で役員を務めていたジュリアン・ハンプスだった。
新社長就任の会見に集まった報道陣は、清久の時に比べ半分にも満たなかった。その理由を宝田の力不足に留めるには説得不足だった。
国内メディアは宝田と同じく大政奉還を期待していたのである。その方が国内では受ける。
日本人は血にうるさい。しかし、出してきたネタは意表をついたアメリカ人、且つ女性、且つライバル社からの引き抜き。
トクダを応援したい者にとってこの交代劇は筋書きにない。
新社長の隣に座る宝田の「さらなるトクダの成長のため」という言葉は明らかに上滑りしていた。
「なぜ創業家に戻さなかったのですか?」
報道陣からの問いにも宝田は、
「トクダはもはや創業家のものではない。そこに戻りはしない」
清久の言葉を引用して強気の答弁をしたが、
「ということは、徳田清久氏のご嫡子が今後社長になることはない、そう解釈してよいですか?」
質問に声を詰まらせた。自分の奥にしまってある思いをこじ開けられそうになったからだ。
代わりに答えたのはハンプスだった。
「Never」
通訳せずとも誰もが解したその回答を、ご自慢のAIがハンプスの表情を読み取って言葉を補足する。
「あってはならない。お家ごっこを喜ぶのは日本だけだ」
ハンプスが発した言葉ではないが、ハンプスの真意が100%含まれていた。
この会見を清久は自宅からリモートで見ている。
(やはりハンプスが先だったか)
その迷いに終止符を打ったハンプスの脱創業家宣言に、清久は自分の選択が間違っていたことを認めた。
が、しかし、踏み入れた迷路に、彼女がどう出口を見つけ出すのかは、清久にも見えなかった。




