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一旦ストーカーに拉致されたかもです。

この作品は多分にパチンコ、ギャンブルの専門用語が多く含まれていますので、分からない方は解説を読んでからご覧ください。

今日は勝てる日だ。


 そんな確信めいた直感を信じ、パチンコ屋に行くことかれこれ25日目、今日こそは勝つと意気込み、最近出た激荒台と噂のeゴッドイータートリプルバーストに座った。


 大学の講義をサボタージュして激荒台に静かに鎮座した時が1番生きているという実感を得る。ギャンブラーたるもの、ハイリスクハイリターン以外のギャンブルをやる意味がない。単勝?甘デジ?遊タイム?そんなものは敗北主義者のカマホモジャパニーズしか飛びつかないと相場が決まっている。


 俺は”漢”だ。


 ”漢”なら生活費1本勝負、勝ったら30万、負けたら樹海のLT一発勝負をする以外ありえない。


 この日のために銭洗弁天で手持ちの一万円札を清めてきた。店内の監視カメラにお辞儀もしたし、筐体の液晶に口付けも済ませている。負ける要素なんて一つもない。


 そう思いサンドに1万円札を入れた———


◇◆◇◆

 


 今、ホームセンターにいます。縄を買いに来ました。太っといやつ。


 いや、普通に考えて1/539を1万円、たかだか170回転で引く方が難しいよね????


 確立計算のサイトで計算したんですけど約27%ですよ????白鯨攻略戦で何もチャンスアップなかった時とほぼ同じ確立ですよ???


 有史以来、ノーチャンスアップで白鯨攻略戦を突破したパチンカーはいないらしいです。


 弁明させて欲しい。確かに俺は”漢”だけど、言い訳くらいはさせて欲しい。


 まずそもそも今日はダメな日かもしれないっていう予感があった。実は。嘘だっていわれるかもしれないけど、店に入る時に押しボタン式の自動ドアが俺の時だけ開かなかったし、俺が着席した瞬間に右隣のやつがRUSH入れたし(右隣の人が当たる、もしくはRUSHに入れると自分の台が全く当たらなくなるオカルトを、真剣ガチで信じています。)、左隣には貞子みたいな女がLT貞子の先ローリングボタンを頭で押してたし、自分の台はそもそもなんのアツいリーチも来なかったから、薄々は分かっていた。


というかあの貞子は普通に出禁にした方が良くないか?治安どうなってんだ。


 まぁ正直な話4000円目くらいからもう辞めるか…?って思ってた。でも、ここで引いたら漢じゃないと思って最後まで行ききった。だけど、最後の2000円くらいから背中が冷や汗で冷たいのなんの。しかも現実を直視するのが苦痛すぎて視界もぼやけてるし。なのでどうやってここまで来たか分からない。


「はぁ〜〜〜〜〜」


ホームセンターの園芸用コーナーで大きくため息をついた。先ほどの1万円で生活資金が無くなってしまった。衝動的にホームセンターに来たは良いものの、縄を買うお金もないことに気づいた。


「マジで今月どうしよ…」


 アルバイトの給料が入るのはあと20日以上先。お金を借りれる友人や知人はいるにはいるが、人と金銭の貸し借りをしたくはないし、上京してきたので身近に頼れる家族も住んでいない。最近の物価高騰の影響か、貧困大学生の味方こともやしも高くなっているため、もやしで今月を凌ぐこともあまり現実的ではない。残った手段は…日払いのバイトか、それともやはりママ活か…と縄の隣に置いてある、ピカピカに磨かれたスコップに反射した自分の顔の造形をまじまじとみながら考える。いつも思うけど、人生経験ありませーん!ガハハ!みたいな顔してるな…可愛い系と言うか…落ち込むわ…


「ねぇ、ちょっといいかしら」


 背後から若い女の声がした。

 いつまでも園芸コーナーにいたからか、もしかして、邪魔になっていたのだろうか。


 「すみません、今どきます…それか早めに死にます…」


 後ろを振り返り平謝りをしつつ、ここでない別のどこかへ移動しようとした時、ふと、この女について見覚えがあることに気づいた。

 顔は髪で隠れて良く見えないが、この腰まである長い黒髪、やけに高い身長、ブルベ冬って感じの白い腕、間違い無い。こいつ、俺の隣でLT貞子に推定12万くらいイカれて、しまいには頭で先ローリングボタン押してたヤツだ。筐体の上のデータグラフがトルコリラぐらい暴落していたのを覚えている。


 僕は思わず声を出した。


「あ…あの、隣の、貞子の」


 女も僕のことに見覚えがあったのか、ピクリとも動揺せず、問いかけに応えた。


「ええ、15万負けたわ。良いことを教えてあげる。あの店は遠隔よ。」

「いや…今どきそういうのは…あんまないんじゃないかと…」

「やけに店の肩を持つわね。あなたも”敵”かしら?」

「いえ、僕も死ぬほど負けたのでお姉さんと同じです。今月生活できなさそうです。」

「そう。じゃあ”味方”ね。」


 髪の毛越しだが、少しだけ口角が上がるのが見えた。

 良かった。危うく敵になるとこだった。


「それで、私はここにある縄で死のうと思うのだけど、貴方もどうかしら?」


 どうやら、この貞子みたいなお姉さんもギャンブルに負けすぎて首を吊りに来たらしい。


 店長、あなたの店で負けすぎた養分が2匹、命を断とうとしているんですよ。もう少し責任をもってください。主に釘設定など。


「いえ、お恥ずかしながら、縄を買うお金も無くて…」

 本当に情けないが、恥も外聞もないので正直に話した。


「…冗談よ。本当に死ぬわけないじゃない。」


 違うみたい。ごめんね、店長。


「まさか貴方。」


 お姉さんがハッとした様子で何かに気付く。おそらく僕が死のうとしていたことを察したのだろう。息を呑み、神妙な面持ちとなる。しかし見間違いだろうか、お姉さんの口角は少し上がっているような気がする。人の顔色を伺って生きてきた僕だからこそわかる、ほんのわずかな変化だ。

 なんだー!見せもんじゃないぞー!人の生き死にをコンテンツにするなー!!!


「ねぇ、貴方、そんなにお金が無いならご飯くらい奢りましょうか?」

「15万負けた私が言うのも変だけれど、貴方、私より死にそうな顔してるわよ。」


 まさか貞子に心配される日が来るとは…人生は何があるか分からない。むろん、大変ありがたい提案だったが、さすがに大の男が女性に奢られるのは情けないので断ろうと思った。


 しかし、よくよく考えたらそんなこと言ってる場合では無いし、先ほど恥は捨てたので、逆に初対面の人にどこまでいけるか試してみることにした。これを世間ではヤケクソと呼ぶらしい。


「そうですね、じゃあ奢ってください。ロイヤルホストとかどうですか?」


 通るか………!?


「貴方…初対面なのに図々しいわね。私15万負けてるのよ?」


 負けそうだが………!?どうだ………!?


 やや引き気味の彼女に、僕は出来る限りの上目遣いで彼女の情に訴えることにした。擬音で例えるなら”きゅるる〜〜ん⭐︎”と言ったところか。


「…まぁでもよく考えたら今更1000円や2000円浪費したところで、痛くも痒くも無いわね。」

「ありがとうございまッス!!!」


 通りました。これ、ガチでアツいです。僕は声が裏がえるほど感謝を伝えた。


「まだ何も言ってないのだけど…」


 さっきの落ち込みぶりは演技だったのかしら…と呆れながらもどこか面白そうに彼女は目を細めた。

 当の僕はちょっとお高いご飯にありつけることが確定し、目を爛々と輝かせながら小躍りした。やったね、儲けもん。


「あ、そういえば今更ですけど名前聞いてませんでしたね、教えてください!」


 命の恩人の名前を魂に刻み込もうと、僕は彼女の名前を聞いた。


「蛇走ヨミよ。爆サイ掲示板では、リアル貞子と呼ばれているわ。」


 うわ最悪だ。爆サイ掲示板に晒されるタイプのネームドのキチガイだった。完全に奢られる相手ミスった。どうしよ、今からでも


「よろしくね、蛙谷まひろ君。いや、涙目のショタ君」


 え、嘘、僕も?


◇◆◇◆



「え、元から僕のこと知ってくれてたんですか?」


 ロイヤルホストで食後のパンケーキをチマチマと切り分けながら、先ほど、なんで自己紹介もしていないのに自分のの名前を知っているのかを聞いたところ、どうやら元からある程度僕のことを知っていたというのだ。

 たしかによく考えたら、いくら僕の顔が整っているといっても、ホームセンターでいきなり女性からナンパ紛いな声をかけられ、あまつさえ食事に誘われるというのは普通では考えられないことだ。本当に。となれば美人局か僕のファンかの二択しか無い。しかし、美人局にしては流石にパチンコで負けすぎているため、おそらく後者の可能性が高い。一応確認してみよう。


「てことはもしかしてですけど、僕のファンですか?」

「いいえ」


 即答だった。


「というか同じ大学でしょう?しかも、同じ学科で。よくキャンパスで見かけるわよ。」


 三番目の選択肢でした。とはいうものの本当に同じ大学か…?正直一度も大学で見た覚えがない。


「貴方が知らないのも無理はないわね。だって私、ほぼ大学に行ってないもの。」


 そうですか。まだ何も言ってないですよ。鋭いね。


「え、じゃあ講義とかどうしてるんですか…?行ってない?もしくは休学中とか…?」

「普通に盗聴よ」


 普通に盗聴かぁ…。いや、どういうことだ…?


「すみません、意味わからんです。あと多分ですけど、犯罪ですよ。」


 僕はよく分からなかったので聞き返した。確かに結論ファーストで話すことができて、もしここが会社なら花丸だが、残念ながらここは会社ではなく少しお高めのファミリーレストラン。盗聴とだけ言われたら犯罪チックなあれやこれが思い浮かんでしまう。


「私たちがよく講義を受ける教室があるじゃない?あそこの教壇の裏に盗聴器をつけておくの。」

「犯罪ですね。」


 やっぱりそれ犯罪だと思います。日本は法治国家であります。


「それに出席確認だって、うち、基本的に緩いじゃない?ほぼ無いようなものだし。」


 うーん…これどうしたものか…?誇り高き日本国民として、目の前の軽犯罪者に一応注意しとくか…?その方がなんか、来世でレアリティ高い生き物に生まれ変われる気がする。よし、決めた。


「うーん…でも、それ、」

「めっっっちゃくちゃ賢いっすね!!実質フルリモートってことじゃないっすか!!」

「いいなー!ガチアツいっすねー!」


 積む善行よりも目先のご飯だ。とりあえず全力でヨイショしておく。

 よく言えば一宿一飯の恩義を感じ、彼女の味方になっておいた。悪く言えば、バイトとパチンコに明け暮れてクルミくらい小さくなった脳みそが考えるのをやめただけ。ノリの良さと思考停止は大学生の特権だ。


 いや、普通に怖いじゃん。犯罪であることをちゃんと指摘して親しい仲になりたくないじゃないですか。無くないですか?倫理などが


「ふふん、やっぱり私たち分かり合えると思ったわ。」


 やはり顔が見えないが、おそらくドヤ顔で彼女は胸を張った。分かりあってないよ〜〜!思考停止して問題を先延ばしにしただけだよ〜〜


「気分がいいわね、このドリアも食べて良いわよ」

「やった〜〜〜!嬉し〜〜〜!!」


 前言撤回します。彼女、正しいです。全て。むしろいまだに授業を盗聴してないやついるんだ。令和だぜ?使えるテクノロジーを使っていけよ。SaaS!VUCA!盗聴!

 

 しかし、調子に乗って注文したは良いものの、デザートも食べて今は腹八分目。いくらわんぱく食べ盛りの大学生でも食べきれるかどうかわからない。

 そういえばヤクザの拷問で、到底食べきれない料理を食べさせて苦しめるっていうやつあったなぁ…なんて思っていると、再度彼女が口を開く。


「気分がいいついでに、一つ頼みがあるわ。わたしと付き合いなさい。」


 死ぬ死ぬ。


「付き合う…?どっか行きたいとこでもあるんですか?荷物持ちなら任せてください。」


 僕は少しでもパチンコ台の”声”を聞き取りやすくするために、毎月7のつく日は必ず耳掃除しているので、バッチリ聞き取れたし、この「付き合いなさい」がおそらく彼氏彼女の関係になってほしいと言うことを理解しているのですが、アホなフリしてどうにかこの場を切り抜けようと思います。なぜなら怖すぎるからです。


 ご飯を奢ってくれるし、良い人なのは間違い無いけど、いきなり告白してくるのとね、倫理観がね…。ここがロアナプラならね、もっと受け入れられてたと思うんだけどね…。


「もちろん、恋愛よ。私と、貴方は、カップルになるの。」


 いや、死ぬ死ぬ。(2度目)


 ハッキリ言いよった。アホなフリ作戦は失敗したみたいです。しかし、普通に怖いし、あまりお近づきになりたくもないのでやんわりと断ることにする。


「いや〜ちょっと、いきなりは無理っすよ。もっとお互いについて理解を深めてから…」


「蛙谷まひろ、生年月日は20XX年5月5日、今年で20歳になったわね。おめでとう。××大学経済学部在学中。入試方式は一般入試ね。最近はパチンコで当たりを引くために各所の寺社仏閣を廻っているらしいわね。交通費は…そうそう、親御さんからいただいている仕送りから出しているそうね。確か定期代と言っていたかしら。わざわざ二駅分ほど歩いてお金を浮かしているらしいじゃない。私は健康になって良いと思うわよ。ずっと脳に良くない光り方をする台と向き合っているんだもの、いい心がけだわ。そういうところも好きよ。どこぞの銭洗弁天で一万円札を清めているのも小動物みたいで可愛かったわよ。そんなことしても当たるとは限らないのだけれど。小さい頃から妙に斜に構えていた子供だったわね。親御さんから聞いたわよ。サラリーマンになるってずっと言っていたそうじゃない。誰でも小さい頃はそう捻くれる時期もあるものね。そこもまた愛おしいわね。小さい時のまひろ君も見てみたかったわ。あ、でも周りに他の女がいたら嫉妬して…しまうから小さい頃にで合わなくて幸せだったのかもしれないわね。ふふふ」


 終わった。


 お母さん、お父さん、多分僕、死ぬかもです。良くて監禁とか。

 今、ほぼ初対面のお姉さんに小さい頃の夢とか自分でも忘れていたような半生を語られちゃってます。めちゃ怖〜〜〜!僕はこの詠唱をどういう感情で聞けばいいのですか?あと多分ですけど僕にも盗聴器、ついちゃってます。


 もうね、怖すぎて笑けてきます。心臓は爆発しそうなほど早鐘を打っているし、背中の汗は止まらないけど。

 あれ?スルーしたけど今、親御さんって言ったか?


「あ、あわ…あわわ」

「どう?ドキドキしたかしら?吊り橋効果で少しは意識するんじゃ無いかしら?」


 なんか言ってます。体感としては心臓を素手で遠慮なく掴まれた感じです。いつでも握り潰せるぞと、そういう圧を感じました。というかここまで人を怖がらせておいて、ちゃっかり吊り橋効果で告白が成功する確率あげようとしてくるの、合理的すぎて怖くなっちゃいます。帰らせてください。実家に。


「あ…あぁ…合ってます。」

「でしょう?良かった。合ってた。」


 なんでちょっと嬉しがってるんだよ。こんなところで人間味を見せてくるなよ。訳わかんなくなって惚れてしまうど。


「え、ちょ、あの」

「怯えているわね。確かに、初対面の人にここまで知られていたら怖いものね。分かるわ。その上、こんな見た目の女に告白されたらより恐怖感倍増ね。」


 あの、今更ハナシを聞かれたところでマイナスがプラスには到底なりませんよ?


 しかしこいつ…ただの狂人じゃ無いのか?もしかしてこいつ全部わかった上でやってるのか…?なら分かってるんでしょう。早く開放してください。切に。


「じゃあこうしましょう?私は貴方のことを知っているけれど、貴方は私のことをまったく知らない。なので、半年、お試しで付き合ってみるというのはどうかしら。」


 なんで付き合う前提みたいに話がついているんですか?ここからでも五体満足でおうちに帰れる、何か、策を。正直色々なことを考えすぎて脳が焼き切れそうだ。

 何が目的だ?ただただ好きで告白してきわけじゃないだろう?多分。だって本当に面識ないし……。なら、金!…は違うな。財布には83円とジョイフルの割引チケットしか無い。じゃあ僕をどこかに売り飛ばす?いや、だとしたら告白なんてする理由がない。普通に拉致などすれば良い。あとは僕の銀行口座を売って…など様々な考えが一瞬で脳内を駆け巡ったが出した答えがひとつ。


「普通に怖いので嫌です」


僕はNOと言える日本人なので、いくら脅されようが自分を貫きます。もう知らない。どうなっても知らない。ばーかばーか!助けて


「そう。じゃあ私はこのまま帰るわね。支払いよろしく」


 そう言うと、彼女は身支度を整え始めた。え、やけにあっさり引き下がるな…何か試されていたのか…?と訝しむ。久しぶりにこのレベルの様子のおかしな人の対応をしたのだが、上手く逃げきれたのだろうか。

 あ、お会計

 あっっっ!!!やられた!!!!!まさか…


「あ!あの、待ってください!もしかして、僕の自意識過剰なのかもしれないのですけど、あの、僕が破産しかけて、いわゆる傷心の時を虎視眈々と狙っていた…なんてことありますか?」


 彼女は身支度をするのを止め、僕に悪巧みが成功したかのような、いやらしい、満面の笑みを見せた。やられた。


 例えば僕が拒絶したとする、そうすると奢ると言っていた嘘つきお姉さんが帰ってしまう。当然ここの会計も支払えなくなり、他に金を無心できるような、頼れる人もないため、食い逃げで捕まってしまう。

 逆に付き合うと言うと、お姉さんにここのお会計を持って貰い、食い逃げは回避することができるが、その代わりにあからさまにヤバいお姉さんと半年付き合わなければならない。


 警察のデータベースに乗るか、この女の口車に乗るか、最悪のニブイチの状況に追い込まれてしまった。


 まぁつまるところ、金欠の時にこのお姉さんの誘いにホイホイ乗っかってレストランに来た時点で勝負は決していたということだ。そのあとは俎上の鯉、美味しくいただかれるだけだったんだ。


 僕が考えていると、お姉さんは意地が悪そうな笑みを浮かべ、こう続ける


「奢ると言ったけれど、別に今ここで帰っても良いのよ。」

「私はね、目的を達成するためならどんな手でも使うわ。」


 ああ終わったんだなぁ…平穏な暮らし。


 絶望する間もなく、傍に店員さんが来て「お待たせしました、こちらお料理になります。お熱くなっておりますので、充分冷ましてから、お召し上がりください。」と無慈悲にも先ほど頼んだアッツアツのドリアが運ばれる。

 

 ドリアから立ち上る湯気を見ながら僕のした選択は———





「陳腐な作戦だったのだけれど、まさか成功するとは思わなかったわ。貧すれば鈍するとはよく言ったものね。」

「私以外の女には、もう、2度と、ついていったらダメよ。殺してしまうかもしれないもの。私を殺人犯にしないで頂戴ね。」

「貴方のファンだなんて、違うわ、それ以上よ。」

「本当に素直で、それでいて聡い人。これからよろしくね、まひろ君。」

 


 お父さん、お母さん、元気に過ごしていますか。あなたがたの息子は、東京で早くも荒波に揉まれています。いえ、荒波というより、死角から出てきた時速100kmのダンプカーに跳ね飛ばされた、とかいった方が正しいのかもしれません。厄介ごとです。今年は無理そうですが、来年のお正月は帰れると思うので、どうか待っていてください。それでは。あなた方の愛する息子より。


P.S

様子を見にくる必要はないです。僕は健康に健やかに暮らしているわ。それと、近いうちに孫が見れるかもしれないので、期待してちょうだい。ではまた会いましょう。

カクヨムにも同じのを投稿しています。

感想くれたら嬉しいです。いぇい

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