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 資料室は、別棟の地下にある。行って帰ってくるだけでも結構時間がかかるので、高塚さんは行きたがらなかったのだろう。

 ダイエットと思えばちょうどいい距離よね。急いで行って来よう。

「水無瀬さん、よろしくね。あ、ちょっと待って」

 課長は言いながら、ポケットからチョコを取り出した。

「さっき打ち合わせしている時にもらったんだ。あげるよ」

「いいんですか? ありがとうございます」

 ころんと二つ手のひらに転がされたチョコは、リンツ。さすが部長のとこはいいお菓子があるわ。

「チョコ、好きだったろ?」

「え、はい。好きなんです」

 確かに好きだけど、私、そんなこと課長に言ったことあったかな? チョコが好きだなんて、子供っぽいと思われそう。

 焦る私の横から、高塚さんが口をはさんできた。

「わあ、リンドールですね! 私も好きなんです、チョコレート」

「もらってきたのはそれしかないんだ。じゃあ、水無瀬さん、よろしく」

 そう言って課長は席に戻っていった。ふてくされた顔になった高塚さんを置いて、私もそそくさとフロアをでた。


  ☆


「そういえばこないだ聞いたんだけどさ」

 別の課に行くと言って留美が一緒にフロアを出てきた。

「何?」

「あんた、秘書課に異動になるの?」

「私? 聞いてないけど」

 異動の希望も出していないし。

「秘書課の課長があんたのこと、ぜひうちに欲しいって言ってたって聞いたわよ?」

「えええ? 知らないわよ」

 秘書課と言えば、エリートの集まる課で優秀な人ばかりいるところだ。

 私は、さっきもらったリンドールを一個、留美に渡した。ありがと、と笑顔になって留美が受け取る。

「んー、来年度に大規模な人事異動があるって噂じゃん? だから、そんな話になったのかな。でも、華だったら、仕事できるしその可能性もあるわよね。そんな伊達眼鏡しなくたって、十分頼りがいがあると思うけどな」

 少しきつい感じの伊達眼鏡に、きちんとまとめて一つに縛った髪。私、もう25なのにいまだに新卒と間違われるくらいに童顔なのだ。それがコンプレックスで、会社ではなるべく大人っぽくするように服装や態度に気をつかっている。

「見た目なんか気にしなくても、華は人間が優秀だからいいのに。いや、それはともかく、あんたさあ、よくあんなに冷静に相手できるわね」

「あんなの?」

「高塚さんよ。あれ、どうにかした方がいいんじゃない?」

「ああ、高塚さんかあ。私が言ってもだめなのよね。申し訳ないけど、今度課長に相談してみようかなあ」

 高塚さんは以前からあんな感じなので、他の社員からも不満の声が多く出ていた。一応、私の部下にあたるので、勤務態度のことで少し話をしたことがある。

 そうしたら大げさに落ち込みまくってしまい、主任や他の男性社員から『彼女が若いからねたんでるんでしょ』『これだからお局様は』『女は怖いな』と散々嫌味を言われた。だからできるだけ彼女には関わりたくないんだけど、このまま放っておくわけにもいかないだろう。

「部長の縁故だか何だか知らないけど、私なら、とっくに総務から追い出してるわ」

 ぷう、と頬を膨らませて言う留美がかわいい。

「まあまあ。あ、会計課行ったら、ついでに白紙の伝票もらってきておいて。そろそろうちにある分、なくなりそうだから」

「あ、そうだったね。了解」

 元気に返事して、留美は廊下を曲がっていった。

 気にしてもしょうがないもんね。私は自分の仕事、仕事。


  ☆


 資料室は、独特の埃の匂いがした。窓がない部屋なので、換気が良くないのだろう。

「あったあった」

 目当ての資料はすぐ見つかった。2冊取り出して戻ろうとすると、突然女性の声が奥から聞こえてきた。

「……それ、本当?!」

「し、声が大きい」

「だって、五十嵐課長が」

 その言葉に、私の動きも止まる。

(五十嵐課長?)

 あれはたしか人事部と情シスの人だ。仲良しらしく、よく一緒にいるのを見る。

 いやそれはともかく、五十嵐課長? 何の話だろう。


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