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「連絡先なんて人から聞くものじゃないでしょ。第一、連絡とってどうするのよ。相手は芸能人……っていっていいのかな。とにかく、超有名人じゃない! 私、対等に口きける自信ないわ」
「俺とはこんな風に話しているじゃん」
「久遠は別。えー、本当にクウヤなんだ。まだ信じられない」
だって、全然ステージと素で性格が違うじゃない。目の前のこれが素だとすると、この性格で『みんなの弟、クウヤだよ♪』とかやってたってことでしょ? それはそれですごいな。
「悪かったな」
「悪かないわよ。むしろ、あれだけキャラを作ってるあんたのプロ根性を見直したわ。ホント別人」
「直人……タカヤのことはすぐわかったくせに」
「タカヤは、あんたと違ってそのままだもん。推しだし」
あ、む、とした。
「バカなこと言ってないで、なんか食いに行こうぜ」
久遠が立ち上がった。
「食いにって、まだ朝……え、もうこんな時間?」
私も立ち上がりながら時計を見れば、もうすぐお昼になろうとしていた。ここでもまた長々と話し込んじゃったんだ。
「時間、いいの?」
「まだいい」
あ、そうだ、MV返さなきゃ。
そう思い出して、久遠の背中を追いながらバッグに入れた手を止めた。
これ……返しちゃったら、もう会う機会なくなっちゃうのかな。やっぱりもうちょっと貸して、って言ったら……もう一度会う機会、作れるかな。
そう考えて、嫌なことも思いつく。
今そんなこと言ったら、『俺がラグバのメンバーだからだろ』、とか思われない?
それは嫌。そんなの関係なく、私は、久遠に、会いたい。
どう言ったら、ちゃんと伝わる?
躊躇していると、スマホが点滅しているのに気付いた。なんとなく開けてみると、メールの着信。
……え?!
「ほわあああああっ!」
スマホを握りしめて、思わず声が出た。
「な、なんだよ?」
急に声をあげた私に、ぎょっとしたように久遠が振り向いた。私は、久遠に自分のスマホをつきつける。
「見て見て見て! ラグバのチケット! ご用意されました!!」
久遠はスマホの画面を見て、目を丸くする。
「へえ。ああ、当日券?」
「そう!! よかったあああ! これが最後のチャンスだったの! 嬉しー!」
浮かれて、思わずその場でくるくる回ってしまう。
ほんのわずかだったけど、数日前にコンサートの当日引換券が出た。その抽選に、最後の望みをかけていたんだ。
「来週にはタカヤに会える! 生で見れるんだ!!」
「今会ったじゃん」
「あ、そっか」
「忘れてんじゃねーよ、ばーか」
なぜか機嫌の直ったらしい久遠は、笑いながら私を見ていた。
なんか今日はいっぺんにいろんなことがありすぎて、脳みそがキャパオーバー。
混乱しつつも笑顔が戻らない私に、久遠は目を細めながら言った。
「あのさ」
「ん?」
「もしお前さえよかったら、また……」
「あらあ、水無瀬さん?」
久遠の言葉を遮るように、誰かに後ろから声をかけられた。反射的に振り向くと、そこにいたのは高塚さんだった。ちょうどカフェに入ってきたところらしい。
「高塚……さん?」
「わあ、水無瀬さん、今日は珍しく若作りなおしゃれしてるんですねえ。見違えましたあ」
ひらひらしたピンクのワンピースが良く似合っている。化粧も職場とは違う少し派手なもので、私なんかより全然かわいい。
浮かれた気分が瞬時に冷めていくのが分かった。
「彼氏さん、いたんですかあ? すみにおけなーい。彼、素敵な方ですねえ」
高塚さんは、満面の笑みで久遠に近づいた。
「こんにちはあ。私、水無瀬さんの後輩で高塚満里奈って言いまあす。水無瀬さんには、いつもお世話になっていまあす」
いつもの3倍、甘ったるい声で言うと、ちらりとこちらを見ながら言った。
「水無瀬さんたらこんな素敵な彼氏がいるのに、五十嵐課長に言い寄っていたんですかあ? 私ぃ、てっきり水無瀬さんは五十嵐課長とつき合っているのかと思ってましたあ」
「は? い、言い寄ってなんて」
「ねえ、私も一緒にお話していいですよねえ。あ、私のことは満里奈って呼んで下さあい。彼氏さん、お名前は何ていうんですぅ?」
な、なんなのこの子……
立て続けにしゃべり続ける高塚さんを、あ然として見ている。
久遠は彼氏でもないし五十嵐課長の事をそんな風に言われるのも心外だし、もうどこから突っ込んでいいのかわからない。




