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「何お前、彼女にも自分の事内緒にしてんの?」
文句を言いながらこちらもサングラスをはずす。
「えっ? イチヤ?!」
「はーい! イチヤだよー!」
明るすぎるくらい明るく言った彼は、舞台の上そのものの声と笑顔。
二人とも、ラグバのメンバーだ。
「なななんで?! 本物?! タカヤとイチヤ?!」
思わず言ってしまってあわててあたりを確認する。さいわい人も少ないし、はじっこの方にいたおかげで誰も気がついてはいないようだ。
「え、ホントに知らなかったの? ごめん久遠、ばらしちゃった♪」
口では謝っているけど、全く悪びれない様子でイチヤは久遠の肩に手を置く。それを見ながら、タカヤが苦笑して言った。
「だから僕はやめようって言ったんだよ」
「え、だって久遠が女とデートしてるんだよ? こんな面白い場面、見過ごすことなんてできないっしょ」
あっけらかんとイチヤが答える。タカヤは、きっちりと私の方を向くとわずかに腰を曲げて言った。
「驚かせてすみません、お嬢さん。僕たちは、てっきりあなたが僕たちの事を知っているものと思い込んで話しかけてしまいました」
「は、はあ……」
「俺たちの名前がわかるってことは、もちろんRAG-BAG知ってるんだよね。俺はイチヤこと、菊池康でーす」
「僕は、吉井直人。いつも久遠がお世話になっております」
深々と頭を下げられて、私もあわてて立ち上がって姿勢を正すと同じように挨拶をする。
「こ、こちらこそ、お世話に……」
別に世話してないしされてもいないけど、他になんて言ったらいいんだ。
「それでこれが、俺たちの甘えんぼの弟、クウヤでーす」
イチヤは仏頂面で座っている久遠に背中から抱き着いて、思い切り振り払われていた。それを私は呆然と見ている。
「嘘……」
「信じられない気持ちはわかるよ。こいつ、あまりにもステージの上と普段の性格違いすぎるよな」
イチヤがわざとらしくうんうんと頷いてた。
「もういいだろ。さっさと行けよ」
久遠がぶっきらぼうに言ってイチヤを睨む。
「はいはい、邪魔はしないよ。けれど久遠、今日は3時から稽古始まるからね。時間変更になってるけど忘れてないよな?」
あ、と久遠が声を上げたところをみると、忘れていたらしい。今日は夜に用事があるからって朝も早くからの待ち合わせだったんだけど、用事ってそれか。
「じゃ、僕たちは先に行ってる」
「じゃーねー、彼女さん。今度は俺たちとも遊んでねー」
突風のように二人は去っていった。残された私たちの間に、沈黙が落ちる。
「あの」
「なに」
元通りに座りなおしておそるおそる声をかけると、淡々とした声が返ってきた。
「……まさか、本当に、クウヤ、なの?」
久遠は、テーブルに頬杖をついて横を向いたままだ。
「そう言ったじゃん」
えー、だってそんなの信じるわけないじゃん。騙されないかとか言ってたし普通は冗談だと思うじゃない!!
私は、思い立ってテーブル越しに手を伸ばすと、久遠の長い前髪を片手であげた。久遠はうるさげにこちらを向いたけど、私の手を振り払うことはしなかった。
この髪と瞳が青で、目のところに仮面をつけたら……
「うわ……クウヤだ……」
しかもすさまじく機嫌の悪い。めずらしいもの見ちゃった。
黙ったままの私に久遠は短く言った。
「で?」
「で、って?」
久遠が何を聞いているかわからずに、オウム返しに聞く。
「なんであいつならわかるんだよ。会いたかったんだろ? タカヤに。どうだったんだよ」
言われて、ようやく今の出来事に頭が追いついてきた。
「私!? 会っちゃったんだ、タカヤに!! 嘘―!!」
「反応が遅い」
久遠が苦笑する。
「だってだってだって、あんなの一瞬のことで脳の処理が追い付かなかったのよ! うわー! ステージで見たまんまの性格! あれ、地なんだ!」
「もう一度呼び戻そうか?」
久遠のぼそりとしたつぶやきに首をかしげる。
「ううん。なんで?」
「好きなんだろ? せっかく俺っていうツテができたんだ。それを利用しようとは思わないのかよ。俺なら、あいつの連絡先とか知ってるし……教えようか?」
「まさか」
即答した私を、久遠はじっと見ている。




