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「あそこでカツヤが謝らなかったら、絶対イチヤじゃなくてタカヤが怒るって」
「そんなことないわよ! だって相手はタカヤよ? タカヤが怒ってるなんて想像できない」
日曜の、朝まだ早き。
私と久遠は、ちょっと駅から外れたオープンカフェで、MVに収録されていたコンサートの話で喧々囂々と語り合って(?)いた。
MVを借りてから1週間ほどが過ぎた。毎日毎日何度も見た。なんなら昨日は茜も呼んで二人で一日見通した。デビューからこんなにうまかったんだ。でも、借りたものは返さなきゃね。
MVを返すから。そう言って、今日は私が久遠を呼び出した。
久遠に会うのが楽しみじゃなかった、と言ったら嘘になる。
この間会った時も、人がラーメン食べるのを興味深々で見ていたし(それで私に怒られた)、その後はラグバの話もめっちゃ盛り上がったし。気がついたら、カフェで3時間近くもラグバの話をしていた。
久遠のラグバに対する知識は深く、私の知らなかった話もたくさん聞けてすごく楽しい時間だった。
何より、口は悪いけれど、一緒にいて嫌な思いをしなかった。きちんとこっちの話を聞いてくれる。
もっと話したい、って思ってしまった。
だから、今日会うのは楽しみだった。今日は休日だから、仕事用の服装じゃない。眼鏡もかけてないし、化粧もナチュラル。なんの色も付けていない真っ黒なままの髪は、ひっつめないで長く伸ばしたまま。人と会う時になにを着ようなんて悩んだの、久しぶり。
何か言われたらどうしようと、不安と少しの期待で、ドキドキしながら待ち合わせ場所についた。私の姿を見て久遠は、ちょっと目を丸くしてから、『やっぱりかわいいじゃん』と笑った。
それが恥ずかしくて久遠につっかかって、冒頭のような喧嘩腰の会話になってしまった。
私たちが話題にしていたのは、おふざけ担当のカツヤが、ぽやんとしたフミヤをからかいすぎてちょっとファンからも可哀想と声があがったネタだった。
「タカヤってぜってー、笑顔で怒るタイプだぞ?」
「あー……うん、わかる」
想像する。普段穏やかでいつも微笑みを浮かべているタカヤが怒るところ。そんな顔は想像できないし、あのままの笑顔で怒られたら、それは怖いな。
「でもさ、タカヤが怒っているように見えるなら、それって、怒っているというより叱っている……心配してるんだよ、きっと」
「へ?」
ストローを咥えたまま、久遠がきょとんとした。今日もアイスコーヒーだ。
「心配?」
「そう。怒って見えるほど誰かのことを心配しているんだよ。もしもタカヤが怒るなら、そういうこと、じゃないかな」
普段はおとなしくても、ちゃんとメンバーのみんなに目を配っている。タカヤが間に入ると、みんな安心して笑顔になれる人だ。少なくとも、ライブのMCなんか見てるとそんな感じ。そういう人は、どんなことがあれば怒るんだろう。
そんなことを考えている私を、久遠は、なぜかじ、と見つめている。
と。
「もーらい」
すい、と久遠の飲んでいたコーヒーのグラスが持ち上げられる。二人で顔をあげると、サングラスをかけた男が二人立っていた。二人とも、見上げるほどに背が高い。
そのうちの一人が、久遠のコーヒーを勝手に飲んでる。
げ、と久遠が声をあげた。グラスを戻しながら、その男がにやりと笑った。
「デート? いつの間にこんなにかわいい彼女作ったんだよ、久遠」
「ばっ、ちがっ」
「照れることないよ。いいことじゃないか。こんにちは、お嬢さん」
言いながらコーヒーを飲んでない男の方がサングラスを外した。
笑顔の綺麗な人だった。おっとりした喋り方が好感を持てる。
「こ、こんにちは」
久遠の友達かな? コーヒーを飲んでた方がずいっと私の前に顔を出した。
「ねえねえ、久遠の彼女ってことは、今度のコンサート来るんでしょ? 俺……」
「コンサート?」
「康、いきなり失礼だよ。まずはちゃんと挨拶を……」
……あれ?
私、この人会ったことある?
笑顔でたしなめる様子とか、深く響く声とか、どこかで……
考えていてあることに思い当たった途端、急に鼓動が早くなった。
緑の髪でも瞳でもないけれど。
すごく、あの人に、似ている。
「……タカヤ……?」
つぶやかずにはいられなかった。笑われるとか誰とか言われる可能性も考えずに、口からその名前がこぼれた。
私の声に反応して、その人はまた私に向いた。
「ええ。久遠がいつもお世話になっております。僕は……」
「直人。こいつは知らないよ」
久遠の言葉に、その人は笑顔のままちょっと固まってから、ゆっくりと首をまわして久遠を見る。
「え?」
「俺はなんも言ってないよ、こいつに」
あちゃー、とコーヒーを飲んでいた男がわざとらしく額を押さえた。




