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『はあ? もっと若いと思ってたのにばばあかよ。見た目詐欺じゃん』
そこまではっきり言われたこともある。失礼なそいつは、ショックで口がきけなくなった私に代わって留美がぼこぼこに言い負かしてくれたけど。
そんなこともあって、童顔は私のコンプレックスだ。
「気にすんなよ」
ふいに、久遠が私の眼鏡を取り上げる。
「あ、返して!」
「俺の前では眼鏡禁止」
取り上げた眼鏡を自分でかけて、久遠は言った。
「俺は、素のままのるながいい。怒って笑って喜んで、くるくる変わる表情のるなが一番」
とくん。
そう、言ってくれるのは嬉しい。
でも。
あなたは私の本当の名前すら知らない。
「おら、行くぞ。腹減った」
「あ……」
立ち上がった久遠を、思わず呼び止める。
「ん?」
伊達眼鏡の奥の目が優しい。そこに、初めて会った時の警戒感みたいなものはない。多分、それは私にも。
ここで実は、ってちゃんと名乗ったらどうなるだろう。
「……なんでもない」
久遠はけげんな顔をするも、それ以上聞くことはなかった。私も立ち上がって久遠のあとを追う。
マスクをつけてカップを片付ける久遠の後ろ姿を見ていて、ふいにさっき誰かに似てると感じたことを思い出した。
あ。
「クウヤ……?」
うっかり呟いてしまった私の声に気づいて、久遠が振り向いた。あわてて私は自分の口元を押さえる。
「クウヤ? って、ラグバの?」
「あ、うん。なんか、後ろ姿とか雰囲気が似てるな、って思っちゃった」
クウヤは、タカヤと同じラグバのメンバーだ。私の言葉に、久遠は微かに顔をしかめる。
「あんなガキと一緒にすんなよ」
そう。クウヤはメンバーの中でも弟のような甘えんぼの存在で、明るくて太陽のような笑顔が特徴の元気いっぱいの少年だ。仏頂面で口の悪い久遠とは、間違っても似ているわけではない。
でも、時折見せる表情とか姿勢とか後ろ姿の肩の雰囲気とか、BRでよく見るクウヤのしぐさになんとなく重なるように見えたんだ。
「クウヤ嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど……お前は好きなのか?」
「そりゃ、ラグバだもん。甘えんぼだけど、時々すごく真面目なだったり不意打ちで胸に刺さること言ったりするじゃない。特に歌声はすごく好み。タカヤの次に好き」
本当は、5人の中でクウヤの声が一番好きなんだけど、そこは推しを優先する。
「ふうん」
隣を歩きながら、少しかがんで久遠が私の耳元で囁いた。
「秘密だけどな、実は俺、本当にクウヤなんだ」
「どうせ嘘つくなら、カツヤって言われた方が信じる。だいたい、クウヤはあんたほど背、高くないだろうし」
カツヤはワイルド系の赤い髪と瞳で、きついことも言うし口も悪い。まんま、久遠と同じ性格だった。それにクウヤは5人の中では下から二番目に背が低い。各自の身長は公表されてないからはっきりわかるわけじゃないけど、久遠ほどは大きくないと思う。
「ち。騙されないか」
意地の悪そうな顔で、久遠がくつくつと笑う。
「そうやって、何人の女を騙してきたのよ」
「人聞きの悪いこと言うな。騙してないし、こんなこと言うのはるなが初めてだよ。ラーメンとうどん、どっちがいい?」
「なんでその二択なの?」
「あんなに豪快に麺をすする女がいるってことが信じられなくてな。もう一度見てみたい」
「失礼ね」
「なら、ラーメン」
「こないだのとこ?」
「今日は別んとこ」
そう言って歩き出した久遠のあとを追いかける。まだBRのケースを握りしめたままだったことに気づいて、そっと、大切にバッグの中にしまった。
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