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 破裂音と共にステージに火花が上がった。立て続けに聴いた曲にあっけに取られていた私は、我に返る。

『みんなー! ついてきてる? 次の曲、いっくよー!!』

 赤い髪に目だけの仮面をつけた男性が、笑顔で叫んだ。髪の色はもちろん、ウィッグだろう。青、黄色、緑、オレンジ。それぞれの色の髪と瞳をした5人組が、アップテンポで歌いだした。みんな、顔の上の部分だけが隠れる仮面をつけている。

「ね? すごいでしょ、お姉。歌もうまいし、かっこいいし!」

 茜が、興奮気味に言った。うん、と上の空で答える私の目は、一曲目から画面にくぎ付けだ。

 推しがすごいから見て、と妹の茜がBRを持って私のワンルームに遊びに来た。

 アイドルって言うからもっと子供っぽくてちゃらちゃらしてるのかと思ったけど、この人たち多分、みんな私と同じくらいか年上だよね。

「これ! この青いのがクウヤ。私の推し! 今、バク転したのがカツヤね。ダンスは断トツ、カツヤがすごいの。お姉の好みはタカヤだと思うな。この緑の長い髪のがそう。あ、この肩組んでる二人がイチヤとフミヤで、声の質が似ててよくハモってるんだ」

 茜が、早口で次々に映し出されるメンバーを紹介してくれる。

 きらびやかな照明の中でも、シックな衣装がセンス良くて大人っぽい。以前見ていたアイドルのように華やかで派手なパフォーマンスではないけれど、目を引きつけるダンスでステージ中を動き回る。透き通るような声はマイクを通しても、綺麗な響きが耳に心地よかった。

 なんなの、この人たち。すごく、どきどきする。

 それが、私と『RAG-BAG』―――通称、ラグバとの出会いだった。


  ☆


「華、おはよ」

 エレベーターが来るのを待っていると、背後から声がかかった。

「おはよ、留美。早いね」

「今日、お茶当番だからさ」

 留美があくびをかみ殺しながら答える。

 私の会社、紫水観光株式会社は歴史が古い分、まだ朝のお茶当番があるような体質の会社だ。

「そうなんだ。手伝うよ」

「ありがと。もう一人が、高塚さんなのよね」

 誰もいないエレベーターに乗ると、留美がわざとらしくため息をついた。

「それは……」

「どうせ来ないのはわかっているからさ、一人でやると思えば気も楽よ」

 ははは、と力なく笑う留美とフロアに入る。

 広々としたフロアには、社員はまだ誰も来てなかった。お掃除のおばちゃんたちが3人、せっせと掃除をしている。彼女たちに挨拶をして、私たちはロッカールームへと向かった。

「華はなんでこんなに早いの?」

 上着を脱いでロッカーにかけながら、留美が聞いた。

「今日の会議室の使用状況、確認しとこうと思って」

「え、じゃあ、そっちやっていいよ」

「メールの既読確認して会議室とれているか見るだけだから、すぐに終わるわ。先に一緒に朝の用意するね」

「そう? ありがと」

 以前のお茶当番といえば、女子社員が一人一人の机に好みの飲み物を置くというとんでもなくめんどくさいものらしかったらしい。今は、社員が来た時にコーヒーなりお茶なりを飲めるように、男女問わず主査以下の当番が用意するだけだ。

 とはいえこの作業も、来年社内に自動販売機が設置されればやらなくてよくなる。私が入った時よりも、会社の業務がどんどん今どきの風潮に変わっているのは、うん、良いことだ。

「おはよう」

「おはようございます」

 お茶の用意をした後会議室のチェックをしていると、ちらほらと社員が出社してきた。

「おはようございまあす」

 始業ぎりぎりでやってきたのは、もう一人のお茶当番、この春入った新人の高塚満里奈だ。今日もばっちりメイクが決まっている。留美が淡々と声をかけた。

「おはよう、高塚さん。今日、お茶当番だったでしょう?」

「すみませぇん」

「次の当番の時はちゃんと来てね」

「はあい、気をつけまあす」

 こちらを見もしないで、いつも通りの答えが返ってきただけだった。留美じゃなくても、ちょっとため息が出る。

 その高塚さんは、急にそそくさと一人分のコーヒーを入れるとミルクと砂糖を入れてからお盆にのせた。

「おはようございまあす、主任」

 見れば、ちょうど主任が来たところだった。

「おはよう、満里奈ちゃん。今日も気が利くね」

「そんなあ。当然のことですよぅ。あ、ミルクとお砂糖、一つづつですよね」

「さすが、よく覚えているねえ。満里奈ちゃんみたいな若い子に入れてもらうコーヒーはうまいなあ。ははは」


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