知
スミスが持っていた火酒をちびちびと飲みながら、俺は先ほどの戦いのことを語った。
戦いの時に感じた高揚感は未だ強く脳裏に焼き付いているので、利き手としても臨場感を感じられたに違いない。
スミスとダリアは目を輝かせながら話に耳を傾けている。
ちなみにミーシャはさっき起きたが、火酒を一杯飲んでもう一度ダウンしている。
「――とまあこんな感じで倒したわけだ。最後の方はわりと力業でなんとかしたな」
思えば情報はなかったとはいえ、反省点の多かった戦闘ではある。
もう一度やれば、もっと上手くやれるはずだ。
「ふぅむ、力業でなんとかできるだけでも十分すごいと俺は思うが……」
「ですです、聞いてる感じ二人で倒せるような魔物じゃなさそうっすよねぇ……」
俺からするとさして目新しい情報はないだろうと思っていたんだが、ダリア達は俺の話を食い入るように聞いていた。
この街ではグラベル火山の攻略は盛んだが、バルネラに関する情報というのは驚くほどに少ないらしい。
彼女達も強力なマグマブレスを吐くという情報や下ろされる素材の耐性や強度くらいしか知らないらしい。
なぜかと思ったが、話を聞けば納得した。
バルネラの素材はとにかく高く売れる。
なので倒せるくらいに実力のある冒険者達は、バルネラに関する情報を秘匿しているらしい。
倒せなかった奴らは当然あの中で焼け死んでいくため、必然情報はほとんど残らないということのようだ。
俺は戻れると思っていたが、深層の守護者戦では守護者を倒さなければ、戻ることはできないらしい。
下手に戻ろうとしたら、その隙をつかれていただろう。
結果として正解を選んでいたわけだ。
「安心しろ、この情報は他の奴らには言わんさ」
「まあ全部終わったら言っても構わんがな」
「全部終わったらって……あ、バルネラの装備のことっすかね?」
「いや、俺が目指しているのはその先だよ」
「その……」
「先だと……?」
スミスとダリアが揃って首を傾げる。
ダリアが首を傾げているのはなんだか愛嬌があってかわいらしいが、おっさんが首を傾げているのはまったくかわいくない。
「スミス達は聞いたことがないか? このバルネラ火山に住んでいるという古龍についての噂を」
「古龍か……そりゃあおとぎ話の類だろう。俺も爺さんに話を聞いたことくらいならあるが、眉唾だぜ」
「私はまったく知らないっすね」
「俺はその古龍を倒しに来た。だからバルネラの装備を整えたら、次はこの火山の最奥にいるという炎古龍に挑むつもりだ」
話をしても、二人は半信半疑な様子だった。
けれど二人とも、俺が戦いに関して冗談を言う男ではないことは知っている。
「本気……なんすね?」
「ああ」
イオは既に、炎古龍を出すための方法を知っていた。
なんでも物知りなエルフから話を聞いたらしい。
あいつが言っていた言葉を一言一句再現すると、こんな感じだ。
『バルネラを知の絶える前に倒せ……それが炎古龍アグニアを出すための方法だって話だ』
情報が曖昧すぎて戦うまではそれが何を指しているのかわからなかったが、今ならわかる。 恐らくアグニアを出すためには、あの光の柱が関係している。
知という言葉は恐らく何かの暗喩。
五本の柱と関係しているとなると、脳裏に浮かぶのは兵家における五徳のことだ。
その内容は知・信・仁・勇・厳の五つ。
中でも知は最もはじめに語られることが多い。
つまり恐らく裏守護者を出すための条件は、
(最初の光の柱が消えるまでに、バルネラを倒すこと……)
あの柱の消える速度は、それほど遅いわけではない。
裏守護者に挑むためには、バルネラ程度一蹴してみせろ、ということなのだろう。
工夫を重ねる必要はあるだろうが……できないことはないはずだ。
そもそもこういった探索エリアは、神が人間に与えた試練と言われている。
――で、あれば。
そもそもクリアもできないようなものを神が用意するはずがない。
時間を短縮するために、今後は倒し方に工夫をする必要があるだろう。
なんとかして最短で倒すための道筋をつけなければいけない。
恐らくその過程で、何度もバルネラを倒すことになるだろう。
倒しまくれば値崩れをするだろうが、それまでに精々稼がせてもらうつもりだ。
「もし裏守護者を俺が倒したら、その時は是非最高の武具を作ってもらおう。バルネラ素材はそのための練習だと思って、気楽にやってくれ」
「なんつぅか……お前と一緒にいると、俺達の常識がガラガラと崩れていく気がするよ」
「そうっすね、ギルさんはすごいとか通り越して、ヤバすぎると思うっす!」
俺はその日、スミス達と飲み明かすことにした。
お互い、また明日からは忙しくなる。
今日ぐらいはゆっくりとしても罰は当たらないだろう。




