魔晶病
小屋は大量に余っていたので、ミーシャ、俺、イオとリルで合わせて三つほど借りさせてもらうことにした。
大して酒の強くないミーシャを軽く酔い潰してから、早朝に一人薬師カーラの店へと出向く。
「なんだい、昨日の坊か。まだ店はやってないよ」
「それは知っている。どうせならもう少し込み入った話でもしようと思ってな」
「はぁ、なんとなくそんな感じはしてたよ……上がんな、茶くらいは出してやる」
くいっと顎で店の奥を指される。
上がらせてもらうと、低めの机と敷かれたカーペットが目に入る。
そのまま床に座ると、ふぇっふぇっふぇっと怪しく笑われた。
「ほら、薬湯だよ。飲み続けると気持ち魔力の回復が早くなるように作ってる」
出された湯を飲むと、スッと鼻を抜けるような爽快感がやってくる。
だがその直後に襲いかかってきた猛烈なえぐみには、思わず眉をしかめてしまう。
だがイオが信じている薬師なら嘘は言わないだろう。
マズかったが、飲めば少しでも強くなれるというのなら我慢してしっかりと飲み干していく。
「ほぅ、ビルガ湯を一口で飲み干すとは……やるね、あんた。名前は?」
「ギルだ」
婆さんに認められても別に嬉しくないがな、という言葉は飲み込んでおく。
そんなことをすれば婆さんだ婆さんじゃないという水掛け論になるのは目に見えている。
「で、ギル。なんの話が聞きたいのさ」
いきなり本題を話してもいいんだが、まずはジャブから入ることにした。
二杯目もしっかりと飲み干し、面倒だったので入れるポットから直で口に薬湯を流し込んでいく。
「ごくっ、ごくっ……ふぅ。婆さん結構強いだろう。こんな感じで薬湯を飲みまくれば強くなれるのか?」
俺の見立てでは、婆さんは結構強い。
イオほどでないとはいえ、多分そこらへんの魔物なら軽くひねれるくらいの実力はあるだろう。
「飲めばすぐに強くなるようなもんじゃないよ。まあ、当たらずも遠からずってところかねぇ。本来なら何年も時間をかけてゆっくりゆっくり強くなっていくのさ」
食事は身体を作るのと同様に、身体全体を薬草を使って作り替えていく。
毎日特定の薬草をとり続けることで、徐々に肉体が強化されていくのだという。
興味深い話ではあったが、どうやらそのレシピは婆さん秘伝のものらしい。
なんでも自分でそのやり方を確立して、薬草を使った肉体改造を行ったんだとか。
この婆さん、どこか頭のネジがぶっ飛んでいる。
「当時の私は薬師として最高のものを作りたいと、現地まで足を運ぶことも多かった。そのせいで強さが必要になったから、薬師らしく徐々に身体を強靱なものに作り替えていったのさ」
「ふむ……」
ミーシャですら見たことがないという豊富な品揃えには理由があったわけだ。
たしかにこの婆さんであれば、自前で材料を調達することも難しくはないだろう。
「だから魔晶病の薬も作れるわけか?」
「まあ……そうだね」
どこか歯切れの悪い様子のカーラ。
彼女はばつが悪そうな様子で、どこからか取り出した焼き菓子をかじる。
「といっても、リルに渡してる薬じゃあ症状の進行を遅らせるのが精一杯さ。私の見立てじゃあ、もってあと五年だろう」
なるほど、薬師としての自分の腕の至らなさに歯噛みしていたのか。
「不治の病相手にそれだけ保てば、十分な気もするがな」
「あれは不治の病なんかじゃない。治す薬のレシピは既にある」
「ほぅ……?」
カーラは机の上に置いてあったキセルを手に取ると、中に詰めた草に火をつける。
そして紫煙をくゆらせてから、カンッと軽くテーブルを叩いた。
「ただ……必要な材料が生半可なもんじゃない。イオ坊も頑張って情報を集めてるみたいだが、リルのせいであまり私のところから離れられないあの子じゃあ、材料を集めるのは難しいだろうね」
「そんなに稀少な材料を使うのか」
「ああ、ヴァンパイアの心筋に、炎古龍の逆鱗、王狼の犬歯……どれもSランクの魔物の素材さ。どれだけ金を積もうと、そう簡単に手に入るもんじゃない」
Sランクの魔物か……そういえばまだ戦ったことはないな。
――あのカイザーコングとの戦いはなかなか悪くなかった。
(そいつらであれば……俺の渇きを満たすことができるだろうか)
ここ最近くすぶっていた俺の中の炎が、音を立てて燃え出すのがわかった。
この身体はどこまでいっても、闘争を求めている。
あのゴリラより満足できる戦いができる魔物……なんだか身体がウズウズしてくる。
よし、とりあえずイオに話を聞いて……近いやつから、狩っていくか。
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