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 食料の問題は、わりとあっさりと解決できた。

 というのも、どうやら俺には狩りの才能があるらしいとわかったからだ。


 魔力による身体強化を使えば、五感の強化や感知できる範囲を広げられることができる。

 身体強化を身体の一部分に留めることで攻撃・防御力を高めることができるが、あれは更に発展系がある。


 まず始めに耳や目に魔力を凝集させることで視力や聴力を強化することができる。

 更にその技術を極めると、感覚器官を起点にして魔力を薄く広く外部に展開していくことができるようになるのだ。


 イメージとしては魔力の靄を出したり、魔力の網の目を広げていく間隔に近いな。


 耳を起点にすれば遠くでの身じろぎの音が聞こえるようになるし、目を起点にすれば後ろに目がついているかのような動きをすることもできるようになる。

 こいつがとにかく狩りに便利なのだ。


 街道から外れて森や平原に出ては、魔力の外部展開によって獲物を発見し、身体強化を使って狩っていく。

 身体強化を使えば豹の魔物を走って追い越したり、鳥の魔物を石で打ち落としたりすることも余裕だった。


 魔力を展開して広い範囲で音を拾えば小川を見つけることくらいはわけないため、水問題も解決だ。


 むしろ問題なのは、それ以外のところだった。

 具体的に言うと衣食住の食以外の二つである。


 今の俺はオーガが身に付けていた腰蓑を身につけている。

 サイズの合っていなかったあの服は、口から炎を出すライオンと戦った時に燃やされてしまったからだ。


 ちなみに使っている得物も、鉄棒ではなくなっている。

 あれはなんかよくわからん全身が岩でできた人形みたいなやつをぶん殴っているうちに、ボキリと折れてしまった。


 今使っているのはよくわからないゴリラみたいな魔物のぶっとい背骨と、デカい犬みたいな魔物の牙を叩いて削ったナイフだ。

 この背骨は驚いたことにこいつは鉄より硬い。

 まぁその分尋常じゃないくらい重いから、鈍器として使うにはちょうどいい。


 ちなみに短剣の方は、切れ味は悪いがとにかく丈夫だ。

 乱暴に突き立てても欠けないので、こっちも重宝している。


 さて、冷静に自分の身なりを見てみよう。

 ――俺の見た目は、完全に野性に返った蛮族そのものだ。

 こんなんで街に入れば、事情がありますと自分から告げるようなものだろう。


 いや、そもそも街に入れるかどうかも怪しい。

 自分で言うのもなんだが、逃亡奴隷でももうちょっとマシな格好をしているはずだ。


 衣服と同様、寝るところも問題だった。

 街道で寝ているわけにもいかないため、木の下や洞穴の中といった比較的マシそうなねぐらを探さなければいけなかったからだ。


 当然ながら毛布の類もないため、適当に狩った狐の魔物の毛皮を使っている。

 毛皮にダニでも住んでいたらしく最初のうちは全身がかゆくてたまらなかったが、火を使って炙ってからは普通に使えるようになった。


 こんな生活は快適とは癒えないので当然街に寄ることも考えたが……もし俺が逃亡奴隷として指名手配をされていた場合、面倒になると思ったので一度も入っていない。


 隣国に行けば奴隷制度はない。

 逃亡奴隷がどういう扱いになるかはわからないが、すぐに捕まって突き返されるようなことはない……はずだ。


 よくよく考えると、俺はこの世界のことをあまりにも知らない。

 隣国のことも、奴隷制度がないことしか知らないくらいだ。

 こんなんで生きていけるんだろうか。自分でもなんだか心配になってくる。


 いっそのことこのまま人間とかかわらず、魔物を狩って森暮らしでもした方が楽かもしれない。


(……いや、それはないな)


 ただ生きているだけではなんというか……つまらないだろう。

 そんな毎日を繰り返していれば俺はきっとまた、あの渇きを覚えることになるだろう。


 だから俺はリスクを取る。

 道行く商人達から盗み聴きしたところによると、次の街を抜けてそのまま進めばバステルの側の街に出るようだ。


 一体どうなるのか……意外なことに不安より楽しみの方がデカかった。

 どうやら俺も、闘技場の観客達と同じ穴の狢らしい。


 命をかけた博打は二回目だが、不思議と悪い目が出る気はしない。

 さて、鬼が出るか、蛇が出るか……と考えながら進んでいたある日のことだ。



「きゃあああああああああっっ!!」


 獲物の気配を探るため展開していた聴力の警戒網に何かが引っかかる。

 近寄って確認してみると……そこには一人の少女の姿があった。


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