鍛冶師
「……(じとーっ)」
「ふわあぁ……」
「……(じとじとーっ)」
「眠いな……気付けに酒でも飲むか」
「私が何を言いたいのか、わかりませんか?」
「わからんな」
予想はつくが、言う気はないといった方が正しいかもしれないけどな。
俺は馬車の中で、水で薄めたエールを飲みながら外の景色を眺めていた。
隣には既に数時間も説教をしてそれでも色々と言い足りていない様子のミーシャと、イオとその妹であるリルの姿がある。
ちなみに馬車の御者は、適当にその辺で雇った普通のおっさんだ。
――トラッドファミリーへの襲撃は、実にあっけないほどに終わってしまった。
大量に待っていた兄貴達も、多少は歯ごたえがあるとはいえ所詮は街のチンピラでしかない。
途中から妙に力強く剣に迷いのなくなったイオと一緒に乗り込めば、正直なところ相手にならなかったと言っていい。
純粋な力というより権力や金の力で鼻薬を嗅がせるのが得意だったらしいトラッドファミリーは、俺達がアジトを徹底的に破壊したことで壊滅することになった。
ただそのせいで、俺達はこうして足早にガレフォンの街を去ることになってしまっていた。
何せただでさえ問題を起こすなと言われていたのに、俺達がしでかしたことの対応のために街中がてんやわんやの大騒ぎになってたからな。
こういう時はさっさと逃げるに限る。
悪党を懲らしめただけなので、別に悪いことはしていないのと思うんだが……やはりシャバは面倒なことばかりだ。
「防具と武器をなんとかしようとしていたんだが、完全にアテが外れたな……」
「彼岸地区に行くってことは、やっぱりそういうことだったのか? まあだとしたら、結果的には問題ないんじゃないか?」
「どういうことだ?」
「ガレフォンの街の鍛冶師はどちらかといえば、金稼ぎの上手い奴らばかりだ。商売ベタな生粋の職人は、街を出て工房を持っていることが多いんだよ」
「腕利きの職人はガレフォンに集まると聞いていたのですが……」
「まあそれも間違っちゃいないんだが……彼岸地区の人間はしっかり立場を持つようになると後進の育成に回って、本人は鍛冶をしなくなるからな」
「なるほど……」
さっきからあれほどガミガミと俺に小言を言っていたというのに、ミーシャはイオに対してはかなり素直だった。
どうやらAランク冒険者ということもあり、尊敬しているらしい。
俺もイオくらいの強さはあるんだが……やはり肩書きも重要ということか。
「ちなみに今俺達が向かおうとしているカーラ婆さんのいるアセロラ村にもそんな偏屈な爺さんがいるぜ。俺の剣を作ったのもその人だ」
その村にいる鍛治師は頑固者のドワーフらしいが、イオは口利きをしてくれるらしい。
亜人を見るのは初めてだな……しかしこいつ、どうしてこんな急に優しくなったんだ?
「俺に男色の趣味はないぞ」
「は……はあああっっ!? 何がどうしてそういう結論になるんだよ!? 俺は普通に女が好きだ!」
「お兄ちゃん、女が好きなの?」
「い、いやリル、違うんだ。これは言葉のあやというやつでな……」
しどろもどろになりながら弁明をするイオを見て、俺とミーシャが噴き出した。
ガレフォン滞在がこんなに短くなるとは思っていなかったが、結果的に腕利きの職人と知り合えるのなら問題はないだろう。
とりあえず俺達は、イオ達が懇意にしている薬師と鍛冶師のいるアセロラ村へと向かうことにした。
別に道中を急ぐわけでもなし。
イオと実戦さながらの稽古でもしていれば、戦闘欲も満たせるだろう。
俺はふたたびふわぁと大きくあくびをし、ミーシャを適当にあしらいながら時間を潰すのだった――。
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