9 Dec. 30「Raining」
9 Dec. 30 -ロシーン骨董品店-
骨董品店の客はボクたちだけだ。
ボクと店主とジルゼは、テーブルを囲んでアンティークの家電談義に花を咲かせていた。
今日は「雨の日」だから、街を通る人もほとんどいない。
コロニーの雨の日は、午後から四時間の間、街中に雨が降る設定になっている。だから、あと二時間くらいは、ここで話を続けられる。
「しかし、レディに乗れなかったのはショックだな」
ジルゼは、バイクをずっとレディと呼んでいる。
やっと彼女の許可が出て、今日の午前中にジルゼはバイクに乗ってみた。けれど、彼が重すぎて、バイクは浮き上がることができなかったのだ。
当のバイクは、骨董品店の軒下で充電させてもらいながら、ウトウトとしている。
ジルゼはそんなバイクを一瞥して、ため息をつく。
「仕方ない、痩せるか。何か良い商品はないかね?」
店主は小首を傾げる。
「そうですねえ。十キロ痩せるとなると、そう簡単ではないですが……」
店主はテーブルを指先でトントンっと叩くと、空中にカタログが表示される。
「大昔のフィットネス器具があります」
「何だこれは?」
「おもしろそう!」
ジルゼとボクの瞳が輝く。
カタログには「エアロバイク」と書いてある。
自転車のような形をしていて、ペダルがついているけれど、前後のタイヤがない。空を飛ぶのかもしれないけれど、これをどう使ったら痩せられるんだろうか。想像もつかない。
ジルゼは一人用の乗り物が大好きだ。その点、店主もよく分かっているのだろう。
「いくらだ?……ん、買えるな。よし!」
ジルゼが即決する。が、店主が引き留める。
「さすがに使い方も見ずに決めるのは良くないですよ。まずは試しに使ってみてからにしましょう。取ってきますね」
店主が奥に引っ込むのと入れ替わりに、サティがコーヒーのおかわりを持ってきた。
ジルゼのカップに温かいコーヒーを注ぐ。
「ありがとう、サティ」
「パパって、ああ言うとこ商売っ気ないんだから」
サティは肩をすくめて笑う。
「だからこそ信頼できるんだよ。店主のお勧めなら、買って損はないと思っている」
ジルゼの言葉にボクも大きく頷く。
「お兄ちゃんなんか、しょっちゅう来るのに何も買わないけど、パパは何も言わないんだもの」
サティがジト目でこちらを見る。
そのとおりだ。耳が痛い。
ボクの給料で買える物にも限度がある。バイクの修理にだってお金が必要だ。
確かに、店主の優しさに甘えている所はあるのかもしれない。
でも、この空間が居心地良いんだもの。
狭い店で、沢山のレトロな物が雑多に並んでいる。けれど、邪魔にはならないし、それぞれの商品が見やすいように計算されて並んでいる。
最近は至る所に花が飾られるようになって、彩りや香りも華やかになった。
自分の家よりも落ち着ける場所なんだ。
「ボクはここがすきなんだ」
「ふーん。ここがね」
ジト目がゆっくり動く。
「うん。あのクロッカスのにおいとか、すてきだとおもう」
ボクが指差した先には紫色の花びら。
サティは少し頬を赤らめて、苛ついているかのようにボクを見る。
「あれはサフランよ。それに、匂いじゃなくて香りって言って。もう、デリカシーないんだから」
「あ、ごめん」
ボクは謝ったけれど、サティはそっぽを向いて窓の外を見る。
ジルゼもフォローの言葉が見当たらない。空気が悪くなりかけたその時、店主がエアロバイクを抱えて出てきた。
ぶつかって商品が崩れそうになる。
「危ない!」
これ幸いとボクとジルゼは助けにいく。
その後は三人でエアロバイクを囲みながら、ああでもないこうでもないと盛り上がった。
サティは雨の街を眺め、子供のように騒ぐ男たちの声を聴きながら、ちょっと微笑んだ。




