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夜の星のメンテナー  作者: M
1章 ボクの日課

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8/13

8 Dec. 29「花も咲いたよな」

8 Dec. 29 -コロニー-


 ボクは、街の商店街の一角にある電気屋のチェーン店へと来ていた。

 先月交換したラジオの部品と夜光発電機との相性が悪かったので、新しい発電機を買いに来たのだ。


 電気屋の販売員は、驚いたような顔をする。


「今どき夜光発電機ぃ? もっといいのが出てるよ。これこれ、気熱発電機!」


 販売員は丸い機械を取り出してきた。まるで羽のない扇風機のような形。

 ボクは眉を寄せる。


「んー、どうだろう」

「こいつは、空調としても使える一石二鳥の発電機なんだ!」


 発電機のスイッチを入れると、ぶぅんと低い音が鳴り、涼しい空気が流れてきた。


「発電量だって五倍以上のエネルギーゲインがあるし、オレはこっちをお勧めする!」


 販売員が篤く説得してくる。

 でも、コロニーの外は寒過ぎて、空気熱からエネルギーなんて取り出せないよ。


「この発電機は大好評につき現品限り。二つとない商品、三割引きにしておくよ!」


 そう言うのって、売れ残りを売る時の文句じゃないかな……。

 やっぱりボクは首を横に振る。


「そんな四の五の言わずに。こっちの方が絶対に良いって!」


 なんて疲れる販売員なんだろう。

 もうこれを買ってしまった方が楽かな?

 でも、夜光発電機は音がしないから良いんだよ。


「でもなぁ……」

「まあ一か八かの勝負だと思って。ダメなら返金するし、お願いします!」


 ボクは電気屋を後にした。

 販売員が満面の笑みで見送ってくれる。


「毎度あり!」


 バイクがため息交じりでボクを迎えた。

 ここで何も言わないあたりに、ちょっとだけ彼女の優しさを感じる。


「ちょっと、よりみちするね」


 目的地はあの骨董品店。

 最近はコロニーに来るたびに寄っているから、バイクも当然のように「分かりました」と応える。


 ショーウィンドウの潜水服は、端の方がすっかり埃をかぶっている。

 カウンターの上には古い時代の万年カレンダー。ヨーロッパ式の表記で十二月を示している。


「いらっしゃい、お兄ちゃん」


 看板娘のサティが出迎えてくれる。

 この数年でお店の常連となったボクを、彼女はお兄ちゃんと呼んでくれるようになった。

 背が高くなり、ボクと目線もあまり変わらない。


「電気屋さんで何買ったの?」


 サティは、ボクの持っていた袋を目ざとく見つけた。


「ああ、ちょっとね」

「何か買わされたんでしょ。あそこのお店って強引だから」


 サティは少し成長して、商店街の色々なことを知り始めた。ごまかしてもダメみたいだ。

 ボクは事の経緯を説明する。


「ふふっ、お兄ちゃんらしいね」

「わらわないでよ」

「ラジオが使えなかったらどうするの?」


 そうなったら、一日の終わりが少し静かになるだけ。


「そうだ、ちょっと待ってて」


 そう言ってサティは店の奥へと走って行き、バックヤードから一冊の分厚い本を持ってきた。


「代わりに、本を読んでたら飽きないんじゃない?」


 それはかなり古いアナログ時計のカタログだった。

 確かにこの本があれば、ずっと眺めていられそうだ。

 が、さすがに店主が慌てる。


「待ちなさい、サティ。それは鑑定に使うから要るんだよ」

「うーん。分かった、パパ」


 サティは残念そうに奥へ戻ると、今度は小さな本を持ってきた。


「これ、私の本。私はお花が好きなの。お兄ちゃんは?」


 沢山の花が描いてある図鑑のような絵本。端の方は擦り切れ、何度も何度も読み込まれた本。

 ボクはその本に軽く目を通してから答えた。


「すきだよ」


 サティは心に花が咲いたように微笑んだ。

 その顔を見て、ボクは本を大事に鞄へしまった。

 

「とてもおもしろそうだね。ありがとう」

「またね、お兄ちゃん」

「ああ、またね」


 店を後にしてコーラルリーフへと向かうボクを、サティはいつまでも見つめていた。


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