8 Dec. 29「花も咲いたよな」
8 Dec. 29 -コロニー-
ボクは、街の商店街の一角にある電気屋のチェーン店へと来ていた。
先月交換したラジオの部品と夜光発電機との相性が悪かったので、新しい発電機を買いに来たのだ。
電気屋の販売員は、驚いたような顔をする。
「今どき夜光発電機ぃ? もっといいのが出てるよ。これこれ、気熱発電機!」
販売員は丸い機械を取り出してきた。まるで羽のない扇風機のような形。
ボクは眉を寄せる。
「んー、どうだろう」
「こいつは、空調としても使える一石二鳥の発電機なんだ!」
発電機のスイッチを入れると、ぶぅんと低い音が鳴り、涼しい空気が流れてきた。
「発電量だって五倍以上のエネルギーゲインがあるし、オレはこっちをお勧めする!」
販売員が篤く説得してくる。
でも、コロニーの外は寒過ぎて、空気熱からエネルギーなんて取り出せないよ。
「この発電機は大好評につき現品限り。二つとない商品、三割引きにしておくよ!」
そう言うのって、売れ残りを売る時の文句じゃないかな……。
やっぱりボクは首を横に振る。
「そんな四の五の言わずに。こっちの方が絶対に良いって!」
なんて疲れる販売員なんだろう。
もうこれを買ってしまった方が楽かな?
でも、夜光発電機は音がしないから良いんだよ。
「でもなぁ……」
「まあ一か八かの勝負だと思って。ダメなら返金するし、お願いします!」
ボクは電気屋を後にした。
販売員が満面の笑みで見送ってくれる。
「毎度あり!」
バイクがため息交じりでボクを迎えた。
ここで何も言わないあたりに、ちょっとだけ彼女の優しさを感じる。
「ちょっと、よりみちするね」
目的地はあの骨董品店。
最近はコロニーに来るたびに寄っているから、バイクも当然のように「分かりました」と応える。
ショーウィンドウの潜水服は、端の方がすっかり埃をかぶっている。
カウンターの上には古い時代の万年カレンダー。ヨーロッパ式の表記で十二月を示している。
「いらっしゃい、お兄ちゃん」
看板娘のサティが出迎えてくれる。
この数年でお店の常連となったボクを、彼女はお兄ちゃんと呼んでくれるようになった。
背が高くなり、ボクと目線もあまり変わらない。
「電気屋さんで何買ったの?」
サティは、ボクの持っていた袋を目ざとく見つけた。
「ああ、ちょっとね」
「何か買わされたんでしょ。あそこのお店って強引だから」
サティは少し成長して、商店街の色々なことを知り始めた。ごまかしてもダメみたいだ。
ボクは事の経緯を説明する。
「ふふっ、お兄ちゃんらしいね」
「わらわないでよ」
「ラジオが使えなかったらどうするの?」
そうなったら、一日の終わりが少し静かになるだけ。
「そうだ、ちょっと待ってて」
そう言ってサティは店の奥へと走って行き、バックヤードから一冊の分厚い本を持ってきた。
「代わりに、本を読んでたら飽きないんじゃない?」
それはかなり古いアナログ時計のカタログだった。
確かにこの本があれば、ずっと眺めていられそうだ。
が、さすがに店主が慌てる。
「待ちなさい、サティ。それは鑑定に使うから要るんだよ」
「うーん。分かった、パパ」
サティは残念そうに奥へ戻ると、今度は小さな本を持ってきた。
「これ、私の本。私はお花が好きなの。お兄ちゃんは?」
沢山の花が描いてある図鑑のような絵本。端の方は擦り切れ、何度も何度も読み込まれた本。
ボクはその本に軽く目を通してから答えた。
「すきだよ」
サティは心に花が咲いたように微笑んだ。
その顔を見て、ボクは本を大事に鞄へしまった。
「とてもおもしろそうだね。ありがとう」
「またね、お兄ちゃん」
「ああ、またね」
店を後にしてコーラルリーフへと向かうボクを、サティはいつまでも見つめていた。




