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夜の星のメンテナー  作者: M
1章 ボクの日課

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7/12

7 Nov. 29「青葉」

7 Nov. 29 -コロニー-


 ボクたちはエアロックを通ってコロニーの制限区域へと入った。

 今日は進捗を報告するついでに、街へと買い物に来た。

 だましだまし使ってきたラジオと、バイクのバッテリーを買い替えないといけない。


「もう、お古は嫌ですよ」


 バイクはそればっかり言ってる。今、彼女についているバッテリーは、ボクが取り付けた中古品だ。


「だいじょうぶだって」


 何度もそう言ったのに、なかなか信じてもらえない。

 バッテリーが使えなくなったらバイクは動けないし、しゃべれない。そうなったらボクも困るんだ。


 制限区域には人が集まっていた。十人はいるだろうか。ここに沢山の人がいるのは珍しい。

 彼らはフル装備で、いつでもコロニーの外に出られる格好をしていた。

 発掘調査隊だろうか? 今回は手伝うように言われていない。

 その中で一番背の高い人が、ボクの方をちらりと見た。


「あの子は?」

「ん、ああ。メンテナーです」


 フル装備の一人が答える。

 彼は「そうか」と呟くと、ボクの方に歩いてきた。

 ボクはバイクを押す手を止める。


 年齢は五十代後半くらいだろう。物静かな雰囲気だけど、眼光は鋭い。

 彼が着ている最新の装備の胸元には、青葉のマークが入っている。プロジェクトの偉い人だ。

 

「君はメンテナーなんだってな」

「はい」

「………なあ、少年。ここはどうだ?」


 まず、少年と呼ばれたことに混乱する。

 確かにボクの見た目は十三歳くらいの少年にしか見えないかもしれない。それでも、毎日メンテナーの仕事を(こな)している。ボクは子供じゃない。


 あと、「ここ」ってどこさ。このコロニー? それとも、周囲の砂漠? それとも、この星?

 「どうだ?」って聞かれても。何について聞きたいのか分からない。


 それでもボクは言葉を紡ぐ。子供じゃないからね。


「いいところです」

「ふむ。それは良かった」


 正解だったみたい。納得してくれた。

 彼は軽く頷きながら、バイクのカウルに手を置く。


「いいバイクだな。かなり古い型のようだが、どこで?」


 あ、彼の本当の目的はバイクの方だったみたい。


「気軽に触らないでください」


 バイクが少し強めに注意する。

 彼は慌てて手を離す。


「ああ、レディだったのか、失礼した。美しいフォルムだったので、つい。申し訳ない」

「美し…………まあ、少し触れる程度なら、構いません」


 バイクは褒められて喜んでいる。

 この武骨なフォルムを美しいと感じるなんて。なんか…、ボクとこの人とは趣味が同じ気がする。


「それで、ここの……」


 彼がバイクの傍に座り込もうとしたとき、さっきの人が声を掛けてきた。


「局長、まもなく出発しますよ!」

「そうか、分かった」


 彼は渋々振り返って、残念そうな声で答えた。

 今度はボクの方を向いて、早口で言い募る。


「少年。俺はジルゼだ。当分はこのコロニーを拠点にするから、いつでも『コーラルリーフ』を訪ねてくれ」


 彼は胸の青葉のマークを指差した。プロジェクトのメンバーだから、安心しろということだろう。

 『コーラルリーフ』はこのコロニーの中央にある役所のこと。つまり彼は、かなりの厚待遇を受けている重要人物のはずだ。


「はい」


 ボクがそう答えると、ジルゼは微笑みを浮かべて戻って行った。

 ジルゼを迎えた調査隊っぽい人たちは、ぞろぞろとエアロックへと進んでいく。コロニーの外で何かの調査か、作業をするのだろう。


 バイクが、ため息交じりに呟く。


「素敵な紳士ですね」


 まるで一目惚れした女の子みたいに。


「そんなふうに、ボクにいったことないよね」

「もちろんです。素敵な紳士にしか言いませんよ」

「そう……」


 ボクは少し背筋を伸ばして歩き始めた。


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