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夜の星のメンテナー  作者: M
1章 ボクの日課

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6/12

6 Nov. 29「ガーネット」

6 Nov. 29 -嵐ヶ丘-


「おはようございます!」


 その大きな声に、ボクはラジオを修理する手を止めた。

 玄関に出迎えると、荷台いっぱいに赤い砂利を積んだ、白い三輪トラックが停まっている。


「あれ? いつものトラックじゃないんだ」

「初めまして。彼は今日休みなんです。ははははは」


 白いトラックはそう言って笑った。

 ボクには何が面白いのか分からないけど、一緒に笑っておいた。


「荷物はどこに置いたらいいですか?」

「こちらへどうぞ」


 ボクは家の裏手の電灯を全て点けて、トラックを誘導する。

 いつものトラックと違って、今日のトラックは切り返しに苦心しているようだ。

 なんとか向きを変えて、壁に荷台を向ける。

 壁にはシャッターがあり、その先は一階の作業スペースにつながっている。


「ここに、おねがいします」


 ボクが壁のシャッターを開くと、トラックは荷台を傾けて砂利を流し込む。


  シャラシャラ

   ゴロゴロゴロ

    ガラガラ


 大小様々な砂利が、複雑な音を立てながら転がっていき、やがて荷台は空っぽになった。


「受取票の確認をお願いします」 


 トラックの窓ガラスに青葉のマークが描かれた受取票が表示される。ボクが手のひらをかざすと、ピッと音がして表示が消えた。

 白いトラックは、明るい声で仕事が終わったことを伝える。


「次は二週間後に、いつものトラックが持ってきます。ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとう」


 ボクがお礼を言うと、トラックはヘッドライトを上下させ、身軽そうに駆けていった。


「さて、と」


 ボクは分厚い手袋を着けると、零れ落ちた砂利を家の中の作業スペースへと投げ入れていく。

 ボクたちは、この赤い砂利をガーネットと呼んでいる。本当の宝石ではないのだけれど、赤くて綺麗な石に見えるから。


「寒いです」


 家の中からバイクの寝惚けた声が聞こえてきた。

 シャッターを閉めて、両手に持てるだけのガーネットを拾う。電灯を消して部屋に戻ると、バイクが泣きそうな声を出す。


「最近サーモスタットの調子が悪いみたいで」

「わかった。あとでみてみるよ」


 また近いうちに買い物に行かなきゃならないみたいだ。


 ボクは手に持ったガーネットを、机の隣にある中型の炉に入れていく。

 炉と言っても、圧力をかけながら低温で処理する真空凍結炉だ。これで、ガーネットの成分を液体として抽出する。


 ボクは手袋を外し、炉の隣にあるボックスから水筒を取り出す。


  チャプン


 前日に準備しておいた水筒には、昨夜の分の液体がたっぷりと溜まっており、空の水筒と入れ替える。

 綺麗な銀色だった水筒は、数年であちこち塗装が剥げ、ボロボロになっていた。

 水筒を覗き込むと、無色透明な液体から、ぷつぷつと泡が立っている。

 そこにリトマス液を数滴たらすと、ぱぁっと赤く色付いた。

 ガーネットほど鮮やかな色ではないけれど、宝石のように透きとおった赤。


「よし、オッケー」


 ボクは水筒に蓋をして、鞄に入れる。

 その様子を見ていたバイクが聞いてきた。


「ガーネットをそのまま泉に入れた方が早いんじゃないですか?」


 ボクは首を横に振る。

 ガーネット自体も強い酸性だ。だから素手では触れない。

 砂利のまま泉に入れてしまうと表面が中和されるだけ。質量全部を中和に使うことはできず、底に沈殿してしまう。

 だからこうやって液体にするのが一番効率が良い……らしい。


 でも、そんな細かい説明は抜きにして、ボクはこう答えた。


「これが、いいんだよ」


 あと何回繰り返せば、あの強アルカリの青い泉を中和できるのだろう。

 そんなことを考えながら、ゴーグルを付けて、バイクに声を掛ける。


「さあ、いこうか」


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