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夜の星のメンテナー  作者: M
6章 月

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26 Jan. 14128「雨水色」

 ウナイは、ボーッと窓から外を眺めていた。

 お店の外は雨。

 今日はニライカナイコロニーの「雨の日」。午後の四時間、雨が降り続ける。


 気象学者さんは一か月も前に月へ行くと言っていたのに、手続きに手間取って、結局出発したのは昨日だったと連絡があった。

 大人って、色々と大変なんだな。

 私は大きくなったら、アイドルみたいに歌って過ごせたら良いんだけど、……そうもいかないよね。

 こんな日は陰鬱な考えしか浮かばなくて、つまらない。

 見上げても、コロニー更新のドーム解体工事が進んでいるだけ。


 雨は灰色。

 街灯の数は変わらないのに、何だか街全体がくすんで見える。

 空気は重くて、視界は歪んで。街中がどことなく雨水の色に染まっている。


 こんな日には、お客さんなんて来ないから、思いっきり歌える。だから、大好きなアイドルの歌を十曲近く歌った。

 そして飽きた。


「聞いてくれる人が全然いないってのも、つまんないよね」


 ウナイは呟く。


「わたし聞いてるよ。ママも」


 妹がお菓子をポリポリと食べながら答える。

 ウナイは小首を傾げて、「ちょっと違うのよ」と漏らす。


「お姉ちゃんは、お客さんがいると恥ずかしいもんね」


 妹の言うとおりだ。小さい頃みたいに、どこでも誰の前でも歌うのは、今ではちょっと恥ずかしい。

 先日も、気象学者さんが来たので慌てて歌うのを辞めた。

 家族以外で、誰の前なら歌えるか……


「お兄ちゃんには、歌ってるよね」


 妹の言葉と自分の心の中の答えが一致して、ドキッとする。


「まあ、家族みたいな人だからね」


 言い訳っぽいと思ったけど、妹はそんな事を気にするような歳じゃない。

 ウナイは、妹に聞いてみる。


「お兄ちゃんのこと好き?」

「うん。だって、いろんなお土産持ってきてくれるんだもん」

「そうだね」

「お姉ちゃんは?」

「ん……」


 ウナイは答えなかった。

 もう一度、窓の外を見つめる。指先でカーテンの裾を揺らしながら、ちょっとだけ微笑んだ。



26 Jan. 14128

 コペルニクスの街は「雨の日」だった。

 カラハーイは、窓辺に腰掛けて外を見つめていた。


 雨は銀色。

 街の灯りは雨に包まれて柔らかく光り、いたる所が燦々と輝いている。


 カラハーイは雨水の色に彩られた賑やかな街を眺め、静かに佇んでいる。

 懐かしい、いつか見た雨の日の思い出。

 みんなで過ごした楽しい時間、友達と遊んだ学生時代、そして、初恋を諦めた日。


「カラハーイ。つぎのをみようよ」


 お兄ちゃんも充電が終わったようだ。


 ここは、月で一番大きな美術館。

 失われた地球の自然を題材にした映像や写真作品の展覧会が開かれていた。

 地球環境回復プロジェクトが定期的に行っている展覧会で、自然を取り戻す意義の再確認と意欲喚起のために、繰り返し開かれている。


 桜並木の向こうにそびえる、威風堂々とした山。

 水鏡のように風景を映し込む、波一つない湖。

 ひまわりが地平線までいっぱいに咲き誇る花畑。

 空を割って伸びていく一筋のひこうきぐも。

 大海に浮かぶ幾つもの真白の帆。


 コロニーができる前、まだ地球に太陽の光が降り注いでいた頃の映像や写真は、皆の心を揺り動かす。

 カラハーイも感動を覚えていた。

 どうしてもこの気持ちを伝えたくて、お兄ちゃんの耳にイヤホンを押し込んだ。


『空も』『海も』『青かったんだね』

「そうだよ。とてもキレイだったんだ」


 お兄ちゃんは懐かしそうに写真を見つめる。

 十万年後に再び太陽が戻ってくるまで、青を忘れないための展覧会。


 カラハーイは満足していた。

 子供の頃に妄想した、お兄ちゃんとの美術館が、まさか実現するなんて。

 時間があの頃に遡ったようで、あと少しだけ時間が止まってくれれば良かったと名残惜しい。


 降り続く雨が終わる時、また二人の旅が始まる。


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