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夜の星のメンテナー  作者: M
6章 月

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25 Jan. 14128「In the Garden」

25 Jan. 28 -静かの海-


 月面の高速鉄道網はあらゆる都市を繋ぐ。大都市コペルニクスや南極のエイトケン、裏側にあるアポロまで。

 ボクたちは様々な場所を訪れた。


 今日やってきたのは、静かの海。

 人間が初めて月に降り立った記念すべき場所であり、最初に定住基地が作られた歴史ある場所でもある。

 最初の基地は、この静かの海の地下にある巨大な地下空間の中に作られた。


「おっきいね」


 足元に広がる直径百メートルほどの竪穴を見たボクは、思わず感嘆の声を上げた。

 穴の壁に設置されたエレベーターに乗り込む。

 エレベーターは一面が窓になっていて、竪穴とその下に広がる地下空間を望みながら降りていく。他に人がいないから、ボクたちはこの景色を独占できる。


 穴の底に到着すると、小柄なパンダ型のアンドロイドが出迎えてくれた。


「今日はお客様一人か」


 その甲高くてちょっと冷たい言い方にムッとしながら「ふたりです」とカラハーイを見せる。


「あら、可愛いお客様がいたのね。良かった、今月の集客ノルマ達成だわ」


 パンダは嬉しそうにぴょんと跳ねる。


「こんな遺跡みたいな場所へ来る人、少なくなったのよ。改めまして、あたしの名前はバナナ。この星()のメンテナーよ」


 この人もメンテナーなのか。ちょっと親近感。


「パンダにバナナって名付けるセンスについては一切の質問を受けません」


 ボクはバナナの喋りの勢いに圧倒されていた。


「あなたは?」

「あ、ボク……ボクは地球のメンテナーでした」

「そう、お仲間ね。名前は?」


 ボクの名前?

 もうメンテナーじゃないし、お兄ちゃんも名前じゃないし。


「えっと……型番はSE2024です。」

「そ、よろしく。あなた、地球で雲を見たことある?」


 名前を呼ばないなら、聞かないでよ。


「いいえ、ないです」


 地球の水分は全て凍ってしまい、大気中に水蒸気は一つも無い。だから、もう地球に雲はできない。


「まあ良いわ。メンテナーのあたしが、この月最古にして最重要な施設の案内をしてあげる」


 月のメンテナーは案内までやるのか。大変そうだ。


「おねがいします」

「ここはあたしの庭みたいなもんよ。何でも聞いて」


 バナナの後について施設に入る。中には巨大なウインチが三つあり、それぞれのウインチから出たケーブルは、竪穴を通って遥か上空へと伸びていた。


「これが、月の自転制御装置よ。このケーブルの先に巨大な重りがあるの」


 バナナは空を指差す。ケーブルの先を見ても、遠すぎてよく分からない。


「このケーブルの長さを調節することで月の角運動量を制御して、自転速度と公転半径を一定にしているの」


 カラハーイは小首を傾げる。

 ボクは何となく分かる。何となく。


「この装置を維持管理するのがメンテナーの仕事なの。ケーブルの調節や張り替え、ウインチの修理とかね」


 月のメンテナーの仕事は、この穴から出ないのか。

 ボクは砂漠の色々な所を巡って、様々な物を見れたけれど、バナナはこの地下空間と竪穴から見える空だけなんだ。


「この仕事をちゃんとやらないと、月は地球から離れすぎちゃうし、ダイソンスフィアからの送電がずれちゃうし、大事なことなのよ」


 そして、バナナは付け加える。


「もう忘れ去られてしまって、誰も顧みないけど」


 寂しそうな言い方の直後、吹っ切るようにボクを見る。


「あなたはどうしてメンテナーを辞めたの?」


 ボクは、新しい僕が来てメンテナーを交代したことと、カラハーイと二人で旅をしていることを説明した。


「素敵、なんて自由なの。お友達になりましょ」


 バナナの目が、キラキラとしはじめた。

 

「あたしもいつか、この庭を出るわ。地球へ行って、雲を見るのよ。絶対に!」


 バナナの勢いに、ボクはずっこけた。

 締まらないなぁ。


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