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夜の星のメンテナー  作者: M
6章 月

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24 Dec. 14127「Swinging night」

24 Dec. 27 -ティコ-


 東京コロニーも活気があったけれど、ティコの街はそれ以上だ。

 沢山の人々が街を行き交い、あちこちから笑い声が聞こえてくる。街頭モニターでは、流行りのアイドルが楽しそうに歌っている。


 今夜は冬至の祭り。

 街中が赤や緑に飾り付けられ、いつもより盛り上がっている。


「鮭を食えー」


 スーパーの前ではネズミ耳の帽子を被ったダミ声の猫型アンドロイドが、冬至のお祭りで食べる鮭を売っている。

 昔はクリスマスと呼んだけど、宗教色を無くして、冬至を祝う日ということになった。だから冬至の日はもう過ぎているのに、それでも冬至のお祭りなんだ。

 太陽が見えないんだから、人々にとって本当の冬至がいつかなんて関係ないのかも知れない。


 ボクたちは、そんな賑やかな夜を歩く。

 興味深い看板が目に入った。大通りから伸びた小路にポンと置かれた看板は、細かな歯車と基板を組み合わせて出来ていた。


「ねえ、ちょっとよりみち」


 カラハーイは、何となく察してくれたようで、こくんと頷く。


 裏通りに近いとはいえ、どの道も明るく照らされ、うらびれた感じはしない。

 ただ、その看板のお店は、ちょっとだけ雰囲気が違った。そう、ボク好みに。


「こんにちは」

「いらっしゃい」


 様々な古民具や古い機器が並ぶ小さなお店。月にも骨董品店があったんだ。

 店内には、冬至の雰囲気には合わないテンポの速い曲が流れていた。

 一番奥で、店主らしい老紳士が静かに作業をしている。


「オルゴールだ! 掃除機まである」


 陳列棚を見て、ボクのテンションが上がる。

 カラハーイもどこか懐かしそうに棚を見ている。


「うわ、タイプライターだ。うごくのかな?」


 電気を使わない手動式の本物は初めて見た。機構が複雑で、完品美品はほぼ現存しないと聞いたことがある。


「もちろん動くさ」


 そう言って、老紳士は立ち上がると、タイプライターに紙を挟む。


「タイプしてごらん」


 ボクは一番上の列の丸いキーをゆっくりと押していく。カチャカチャという気持ち良い音とともに、白い紙に「QWERTY」と文字が打たれる。


「すごいっ!」


 カラハーイも跳ねるようにしてキーを押す。タイプライターの上を蝶が舞って文章を作るという幻想的な光景に、老紳士も満足そうに微笑む。


 話のわかる客に気を良くしたのか、老紳士は手招きして、修理作業中だった機械を見せてくれる。


「坊や、カセットデッキは見たことあるかい?」


 坊や……じゃないんだけどな。まあ、いいか。


「これはな、周りの音やラジオの音を、このカセットテープで録音できるんだよ」


 そう言って、デッキからテープを取り出した。


「このカセットテープってのが、大昔のメモリーみたいなものだ」


 カラハーイは、ボクの目がキラキラとしたのに気付いたのだろう。首から下げていたイヤホンをボクの耳に突っ込んだ。


『録音は』『私ができます』


 カラハーイが小さな対抗意識を見せる。


 分かってないな。本当に分かってない。

 記憶(メモリー)じゃなくて、アナログな媒体に残せるのが良いんじゃないか。


 でも、悲しそうな顔をするカラハーイに「かわないよ」と伝える。

 旅の荷物で鞄はいっぱい。これ以上持ち歩ける思い出はない。


 買えないお詫びに、ボクの自慢のコレクションも見てもらう。


「おお、とても古い地球儀だ」


 老紳士はモノクルの拡大鏡を取り出し、じっくりと見つめる。


「一万年以上前の地理だ。金属疲労も少ないし、状態がかなり良い。大事に使っているね」


 褒めてもらえて、ボクも嬉しくなった。


「良いものを見せてもらった。ありがとう」

「こちらこそ」

「今宵は久しぶりに刺激的な夜になったよ」


 老紳士はそう呟いて、レコードプレーヤーを引き寄せ、次のレコードに針を落とした。


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