23 Dec. 14127「星に願いを」
23 Dec. 14127 =花屋Rosheen=
店からは、陽気な歌声が漏れ聞こえていた。
ショーウィンドウに飾られた花々の向こうで、ウナイが歌っているのが見える。月で流行りのアイドルの歌らしい。
俺が店に入ると、彼女は慌ててマイク代わりにしていた箒を後ろ手に隠す。
「気象学者さん、いらっしゃいませ」
妹は、俺の姿を怖がって裏に隠れてしまった。正直この見た目は子供ウケが良くない。
ウナイは物怖じせずに接してくれる。雰囲気はサティによく似ている。
その髪にバラが差してあるのに気が付いた。
「可愛い花だね」
「三日前にお兄ちゃんがお店に来てね。カラハーイにもらったの」
そうか、一足違いだったか。
少年がどこに向かったか知っているだろうか。そう聞こうと思った時、ウナイの方から教えてくれた。
「お兄ちゃんはね、月へ行ったんだよ。私もいつか一緒に行けると良いな」
ウナイは、天井のその先にあるはず月を見上げ、夢見る少女のように微笑む。
……ふむ。
俺みたいな人外だったり、少年みたいな子供だったり、スクーターみたいな乗り物だったり、アンドロイドがこんな形をしている一番の理由は、人間の恋愛対象にならないためだ。人口の維持のために障害となりそうな要素を減らしたいのだろう。
が……どうやら、あまり意味はなさそうだ。
「月のどこで会えるか分からないが……少年に会ったら連絡するよ」
ウナイの母親に連絡用の番号を伝え、俺は月へ向かうことにした。
23 Dec. 27 -ティコタワー-
ティコのクレーターの真ん中にある小高い丘の上に、そのタワーは立っている。
街を包むドームを支える頂上付近には、ティコの町を一望できる展望台がある。
「うわぁ、きれいだなぁ」
ボクは、眼下に広がるティコの街に感動していた。
古くからアルミニウムを掘り出していた鉱山町として発展したティコは、月で有数の大都市だ。
街はまるでミニチュアのようで、豆粒よりも小さな街灯の光がゆらゆらと並んでいる。
動いているライトは自動車だろうか。直線に流れていくのは高速鉄道だな。
さらに目線を上げると、クレーターの山々の向こう側にあるティコ周辺の都市まで見ることができる。四方八方へと伸びる高速鉄道の路線に沿って、光条のように人の活動が広がっている。
ゴツン
突然響く何かがぶつかった鈍い音。
その音に反応して、展望台の観光客がキョロキョロと辺りを見回す。
チャイムとともに館内放送が流れる。
「豆粒ほどの小さな隕石がドームにぶつかったようです。まれにこのような事がございますが、ドームは頑丈です。問題はありませんのでご安心ください」
不安を煽らないように、優しい声で柔らかい表現のアナウンス。観光客は安心して、再び風景を楽しむ。
地球だったら流れ星になっていたのだろう。
大気のない月では、流れ星に願う事すらできないんだ。
でも、街の人々の楽しそうな様子を見ていると、星にするような願いなんて無いのかもしれない。それはそれで、ちょっと寂しいな。
ボクが下ばっかり見ている一方で、カラハーイは少し上を見上げていた。
「なにがみえるの?」
彼女が指差す先には、星さえ見えない真っ暗な宙域。星が見えないのは、そこにあるはずの地球の陰に隠れているからだ。
月の地面が眩しすぎて、太陽の光が当たらない地球は夜空の穴にしか見えない。
それでも、あそこはボクが三千年仕事をした星だ。
少しでも役に立てたのなら良いな。
将来、太陽の光が戻ってきた時、地球は何色に見えるのだろう。
きっと、綺麗に輝いてくれるはず。
見えない地球に願い事なんて、他の人たちから見たら変かもしれないけれど、ボクも祈るように虚空を見つめていた。




