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夜の星のメンテナー  作者: M
6章 月

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22 Dec. 14127「blue bird」

22 Dec. 14127 =嵐ヶ丘=


 気象学者は、久しぶりに嵐ヶ丘を訪れていた。

 ルーフ付きスクーターを二階建ての白い家の前に停める。

 この家を訪問するのは二度目だ。


「ここで待っててくれるかい?」

「分かりました」


 スクーターの小気味よい返事を聞いてから、玄関のチャイムを鳴らす。

 間もなく、子供のアンドロイドが出てくる。彼は、夜が明けないこの星(地球)のメンテナーの一人だ。


「やあ、少年。久しぶり」

「ジルゼさん!」


 少年は、破顔の笑みで出迎えてくれた。


「今の俺は気象学者だ」

「そうでした。気象学者さん、いらっしゃい」


 かく言う俺の体も、今はアンドロイドだ。体は女性型で、頭の代わりにヘリコプターの羽根が付いている。

 普通の人間の形をしたアンドロイドは、ほとんどいない。それにもちゃんと理由したがある。


「二階へどうぞ」


 少年に誘われて階段を登る。上の部屋に入るのは初めてだ。

 何に使われるのか分からない、雑多な機械が並んでいる。以前から少年が好きだった物ばかりだ。

 その一つ、アンティークラジオからは、古い寓話の朗読劇が流れてくる。


「この後で、花屋にも寄ろうと思っているんだ」

「Rosheenですね」


 その答え方に、俺は違和感を感じた。

 確かに姿も同じ、会話も通じる。少年は少年に違いないはずなのに、彼とは別の存在のような気がする。

 距離感が違う、と言うべきか。

 俺は、ズバリ聞いた。


「キミは、前の少年じゃないね」

「はい。先代の『ボク』はメンテナーを引退しました。『ボク』の仕事と記憶は、『僕』が引き継いでいます。」


 やはり。


「更新すると言うのはどんな気分だい?」


 気象学者のこの身体も、無限に改修して使い続けられるわけじゃない。

 千年、二千年先のどこかで新しい身体に変え、それに合わせて最適化した人格プログラムに更新しなければならない。

 人格はオリジナルをコピーし、前の身体の記憶を引き継ぐ。

 いつかは俺も通ることになる道だ。


「更新した方としては、体が新しくなって、不具合がなくなって。良い気分です」


 そして、彼は一呼吸置いて、窓の外の月を眺める。


「更新された方の気分については、本人に聞かないと」


 一瞬の沈黙。

 ラジオからは、貧しい兄妹がクリスマスに青い鳥を探す旅に出るという昔話が流れている。

 ふと見ると、花瓶にはアネモネのドライフラワーが飾ってある。

 少年にとって特別だった花だ。記憶を引き継いだ今の彼にとっては、どうなのだろうか。


「前の少年は、今どうしてるか分かるかな?」

「そうですね。ずっと月に行ってみたいと思っていましたが……。今はどこにいるかまでは分かりません」


 プロジェクトから外れたアンドロイドの行き先は、プロジェクトでは把握していない。


「ありがとう、自分で探してみるよ。運命なら必ず出会えるはずだ」

「意外ですね。気象学者さんがそんな考え方をするなんて」

「俺は根っからのロマンチストだよ」


 彼は「そうですか」と言って笑った。


「信じてないな」

「いいえ。きっと、ボクも気象学者さんに会いたいと思っていますよ」


 今度は二人で笑う。

 俺は彼に別れを告げ、家を後にする。


「さあ。レディ、行くぞ」


 スクーターに乗り込むと、彼女の不満げな声が聞こえる。


「あれ? 彼は私とは話してくれないんですか」

「ああ。彼は、あの少年じゃない」

「どういうことです?」

「会いに行けば分かるさ」


 スクーターのアクセルを吹かすと、「るるるる」と音を立てて舞い上がった。


「どこに行くんですか?」

「青い鳥を探しにだよ、チルチル」

「ちるちる?」

「妹はミチルの方だったかな……とりあえず、ウナイに会いに行こうか」

「本当に何の話です!?」


 俺たちは、コロニーへ向かって風を切るように駆けていく。


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