21 Dec. 14127「光溢れ」
21 Dec. 27 -ティコ-
シャトルは月へと近づいていく。
ボクは窓から眼下に広がる月の街を眺める。
月はすごい。見える範囲全部が町。それぞれの都市が煌々としている。
「これより着陸態勢に入ります。座席の背もたれ、テーブル、足置きを元の位置にお戻しください」
アナウンスが入り、シャトルは高度を下げていく。
カラハーイはボクの膝の上に座ったまま動かない。緊張しているみたいだ。
シャトルは音もなく静かに、月の空港へと降り立った。
月の表側にある最大の都市ティコは、大きなクレーターの中に作られた街だ。街を囲むクレーターの縁に沿って、無数の灯りが輪のように連なっている。
駐機場からブリッジを通って空港ターミナルに入ると、カラハーイが背伸びをする。
「こわかった?」
カラハーイは首を振る。彼女の背中の羽根が、その動きに合わせてサラサラと音を立てる。
ボクはそれ以上何も聞かずに、ゲートに向かう。
ターミナルのお客さんはまばらだ。
行き先表示の掲示板に描かれているのも、今週の最終便だけ。
地球を往復するシャトルは限られているし、月には空気がないから飛行機は飛べない。
だから、移動はもっぱら電車となる。
空港直結の高速鉄道駅と地下鉄駅。階段を登れば別の町へ、降りればティコの街を巡る。
「どっちがいい?」
ボクはカラハーイに聞くと、彼女は小首を傾げて、下り階段を指差した。
「いいね。まずはティコをたのしもう」
ボクは羅針盤の指し示す方へと歩いていく。
地下鉄で三駅。
ティコで一番の繁華街だ。
それなのに、思っていたよりも駅を歩いている人が少ないな……そんな感想を持ちながら、地上へと出る階段を登り切る。
ザー
今日のティコは「雨の日」だったみたい。
ちゃんと調べておくんだった。
カラハーイが申し訳なさそうにする。
「きにしないでよ」
あと二時間は雨らしい。駅に戻って、お店で時間を潰そう。
ズデッ
ボクは踊り場で思いっきり転んだ。慣れない重力と、雨で濡れた階段で滑ったのかもしれない。
カラハーイは心配そうにボクを見る。
ちょっと幸先は良くないけれど、カラハーイのせいじゃないよ。
とりあえず一番近い喫茶店に入る。
喫茶店には充電サービスをしている所があって、飲み物なんて頼まないけれど、たまに利用している。
「いらっしゃい」
お兄さんがマスターをしていた。若くてかっこいい人だ。
「雨が上がるまで充電かな? ゆっくりしていって」
「ありがとう」
察しもいい。
雨でお店の客も少ないから、マスターは手持ち無沙汰のようだ。
「キミたちは、旅の人? ティコは初めてかい?」
ボクはコクリと頷く。
「ティコタワーは外せないな。あそこはクレーターの中央でドームの天井を支えているから、ティコを全方位一望できるんだ」
マスターは楽しそうに話す。
「静かなところが好きなら、ティコの図書館が穴場だ。俺もよく行くんだけど、落ち着いて……」
話は終わらない。でも、マスターの紹介してくれる場所はどこも魅力的に感じる。彼が本当に好きな場所なんだろう。
カラハーイもワクワクしてきたようだ。
「雨は上がったみたいだよ」
お店の外の人通りがどっと増えた。
「ありがとう、いってきます」
「次来るときは感想を聞かせてな」
「もちろん」
ボクたちは喫茶店を出る。振り返ってお店の名前を見ると「ハレヒレホ」の看板。ちょっと変な名前。
でも、素敵な出会いだった。
駅から出ると、街は柔らかな光に包まれていた。
いたる所についた水滴が、街の光を反射してキラキラと輝いている。
カラハーイのおかげで、こんな光景が見られた。
ボクたちは運が良い。




