20 Dec. 14127「お菓子と娘」
20 Dec. 27 -花屋Rosheen-
ボクたちは、いつもの花屋を訪れていた。
出迎えてくれたウナイは、十歳になっていた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
いろんなコロニーを回って、ボクたちはいつもここへ帰ってくる。「お帰りなさい」を聞くとホッとする。
今回は、ポリネシアコロニーで買ったお菓子のお土産を渡す。
「お兄ちゃん、ありがとう。あっ!」
ウナイに手渡そうとしたお菓子の袋を、彼女の妹が奪い取る。思わずボクもよろけた。
「こらっ、お礼を言ってからでしょ」
妹をたしなめるウナイは、まるで小さな母親のようだ。本当の母親が苦笑しながらジュースを持ってくる。
いつものようにカラハーイはウナイの肩に飛んでいく。
「カラハーイも元気そうね」
ウナイは嬉しそうにカラハーイを撫でる。
カラハーイは、ばらのドライフラワーをウナイに見せる。
「きれいね。え、くれるの?」
ばらをウナイの頭に優しく飾る。
黒い髪に薄紅色の花が映える。
「にあってるよ」
「ふふっ、ありがとう」
ボクが褒めると、ウナイはくすぐったそうに笑う。
「小さい頃、ひいおばあちゃんから聞いた海辺に咲くばらのお話を思い出したわ」
そのお話がどんなお話なのかボクは知らないけれど、カラハーイはきらきらと体を揺らし、懐かしそうにウナイの顔を見る。
二人には特別な思い出があるみたい。
「そうだ。これを」
ボクは鞄から片っぽのイヤホンを取り出し、ウナイに手渡す。そして、耳につけるようジェスチャーする。
ウナイは不思議そうな表情で、イヤホンを耳に入れる。そこへカラハーイが顔を近づける。
『私の声』『聞こえる?』
ウナイはびっくりして、肩のカラハーイを見る。
「これ、カラハーイの声?」
『はい』
「すごーい! お話できるなんて」
ウナイが飛び跳ねるほど喜ぶから、カラハーイが落ちそうになる。
「おいしい!」
そんなことお構いなしに、妹はお菓子を頬張り、満面の笑みを浮かべる。
「お姉ちゃんも食べなよ」
ウナイの口にお菓子を押し込むように当てる。妹は妹で優しいのだが、ちょっと配慮が足りないところがあるようだ。
それどころではなかったのだけれど、ウナイは無邪気な妹を無碍にはできない。お菓子を受け取って口に運ぶと顔が綻ぶ。
「ほんとだ、おいしい」
そして、妹はボクの目の前にお菓子を一つ押し出す。
「お菓子どうぞ」
「ありがとう。でも、ボクはたべられないんだ」
アンドロイドに食事は不要。誰かと一緒に食事を囲むことはない。
ボクは、ウナイたちが喜んで食べているのを眺めるだけで十分だ。
「じゃあ、いいよね」
妹は差し出したお菓子を自分の口に入れ、ジュースを飲む。
ウナイは、ちょっと呆れた顔をしながら話を変える。
「お兄ちゃん、次はどこに行くの?」
ボクは、上を指差した。
ウナイは天井を見て、またボクを見て、小首を傾げる。
そして、気付いたように目を見開く。
「月ね! 今度は月に行くんでしょ!」
「せいかい」
「すごーい。私、まだ他のコロニーにも連れて行ってもらったことがないのに」
母親が再び苦笑する。
妹も、この話には興味があるみたい。
「月へ行くの?」
「そう」
「じゃあ、月のお菓子を買ってきてね」
みんなで大笑いした。妹はなぜ笑われたかよく分かっていないみたいだ。
「もちろん。たのしみにしてて」
「待ってるからね」
帰ってくる場所があって、待っていてくれる人がいるって言うのは、素敵なことだ。
楽しい時間を過ごし、ボクたちは空港へ行くことにした。
「ちょっと待って」
ウナイが呼び止める。
自分の髪をまとめていた紐を外すと、イヤホンの穴に通してカラハーイの首にかけた。
「行ってらっしゃい」
本当に素敵だな。




