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夜の星のメンテナー  作者: M
1章 ボクの日課

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5/12

5 Nov. 28「夕月」

5 Nov. 28 -コロニー-


 街を出て、コロニーの端にある制限区域に入る。

 ここには一般市民は立ち入ることができない。けれど、ボクはコロニーの外に住んでいるメンテナーだから、顔パスだ。


 コロニーの壁には外に出るための小さな通路があり、ゲートと呼ばれている。

 ゲートは四重のエアロックでできており、外気が直接中に入ってこないようになっている。

 バイクを押しながら、一つ一つのエアロックを進んでいく。


 外から入って来る場合は一つのエアロックで三十分以上待たされることもある。それがとっても面倒臭い。

 こんなのを通らなきゃいけないから、用がない限りあまりコロニーへ来たいと思わない。


「とても楽しかったです。またすぐに来たいですね」


 バイクは、ボクの考えを見抜いていたかのように、逆の感想をのたまう。

 まさか朝から来て、夕方までいることになるとは思わなかった。

 必要な物は買ったし、当分は用がないはずなのに。きっと彼女は買い物をする行為自体を楽しんでいるんだろう。


「さあ、いくよ」

 

 最後のエアロックを出ると、一気に気温が下がる。

 と同時に、バイクのサーモスタットが暖機運転を始め、「るるるる」と音を立てる。


 コロニーの光を背にして、何もない地表を眺める。

 見上げると、真っ暗な空の真ん中で、まん丸な月が光っていた。

 風の音も小さく、バイクの唸る音だけが冷たい空気の中を静かに響いていく。


 ビビビビビビ……


 突然、警報が鳴り始めた。コロニーの横にある大きなパラボラアンテナから発せられている。


「何の警報ですか!?」


 バイクは知らないらしい。


「もうすぐ、マイクロウェーブがくるんだ」


 ボクは簡単にだけ説明すると、ゴーグルを装着し、まだ何も理解していないままのバイクに跨る。

 少し離れた岩場まで、急いで飛んでいく。一息つくと、バイクがもう一度聞いてきた。


「マイクロウェーブが何ですって?」

「あれ」


 ボクが指差すと、天上の月から赤いレーザー光が降ってきた。

 その光は、パラボラの中心に到達して、赤い糸のように月と繋ぎ、位置を決めている。


 直後、マイクロウェーブによる送電が始まった。

 周囲にある水分や金属は熱を持ってしまうから、事前に警報で退避を促している。


「何も起きないですね」


 何かが始まると期待していたバイクが不満を漏らす。

 マイクロウェーブは目では見えない光だから仕方ない。

 でも、コロニーに囲まれた街で暮らす数千万人分のエネルギーを賄う、とても重要な儀式だ。


「まあ、みててよ」


 ボクたちはそのまま数分ほど待つ。

 マイクロウェーブを受けたパラボラは熱を持ち、表面に付着していた氷が溶け始める。

 幾つかの氷塊がパラボラに沿って滑っていく。


 すると、溶けた氷がマイクロウェーブの加熱効果によって一気に蒸発していく。

 水蒸気は冷気を受けて再凍結し、それがレーザーとコロニーの光をキラキラと反射する。

 レーザーの周りに、複雑に輝く幻想的な光の柱が立ち上る。

 

「キレイ……」


 バイクが絶句する。


「こういうの、ダイヤモンドダストっていうんだって」


 ボクは、昔の気象用語を引用して説明する。もちろん、自然が作った光景ではないから、その表現が正しいかは分からないけれど。

 

 マイクロウェーブの送電が終わり、月と地球をつないでいた赤い糸が途切れた。

 バイクは興奮気味に聞いてくる。


「毎回見られるんですか?」

「いつおきるかは、わからないよ」


 かく言うボクも数回しか見たことがない。風のない今日みたいな日に、このタイミングでしか起きない現象だから。


 ボクたちは雲一つない空に舞い上がり、北の空に輝くベガを目印にして、我が家へと向かう。


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