19 Nov. 14127「焼け野が原」
19 Nov. 27 -ポリスコロニー-
そのコロニーのエアロックは開いていた。
コロニー内に光を発するものはなく、……真っ暗。外から入ってくる星の光で仄かに照らされているだけ。
何の音も聞こえない。
いや。遠くのほうで何かが砕ける音が幽かに響いている。
きっと、反対側でコロニーを解体している音かな。
ここは更新されなかったコロニーだ。
コロニーは数百年もすれば老朽化する。改修工事を行いながら維持していくが、それにも限界がある。
そこで、コロニーを覆うドームの外に、もう一回り大きなドームを作ってから、元のドームを壊す。そうすれば、中の人々が住み続けたまま新しいドームに更新できる。
しかし、このコロニーは捨てられた。
今、静かに壊されるのを待っている。
ボクは、そのコロニーの中を散歩する。
カラハーイはボクの肩に乗って、怯えるように寄り添っている。
ビル街。
季節風によって、外から入ってきたマイクロプラスチックの埃が薄く積もり、アスファルトは灰色に染まっていた。
歩くと埃が舞い上がり、ボクの後ろに足跡が出来ていく。
上を見上げると、空に向かって真っ黒な建物と街灯が伸びている。
その先、ドームの向こう側に星々が輝く。
街に人がいて、ビルに灯りが点いていた時は、光に紛れて見ることのできなかった風景。
住宅地。
もちろん誰もいない。
ボクの歩く足音だけが、妙に甲高く鳴る。
コロニーの全ての住人は近隣のコロニーへと引っ越して、ゴーストタウンになっている。
ヒビ割れたガラス、端が錆びた手すり、冷たい門灯、全て枝だけの植木。
何も無いわけじゃない。
家も、店も、公園も。町はそこにある。
なのに、人がいないというだけで虚無に感じる。
まるで焼け野が原。
花壇には、凍って萎れてしまった花が並ぶ。
カラハーイは少しだけ俯いて、それを見つめる。何かに気が付いて、さららと羽の音を立てて舞い上がり、花を一輪だけ手折る。
それは少し色が残っていたばら。乾燥した氷点下の冷気によって、上手くドライフラワーになったようだ。
ばらを抱えて戻ってきたカラハーイは、少しだけ笑っているようだった。
ゴミ捨て場だ。
このコロニーを出ていく人たちが、要らなくなった物をまとめて置いたのだ。
食器、カレンダー、ぬいぐるみ、絵の具。
やっぱりここにも生活があったんだと分かる場所。
小型のラジオが落ちていた。イヤホン型で電池の要らないタイプ。
見たところ、壊れてはいなさそうだけど、片方しかない。
もう一度空を見上げる。……月は出ていない。だから、スイッチを入れても何も聞くことはできないはず。
ボクは鞄にそっとしまう。ここは捨てられた場所だから、問題ない。
どうして、このコロニーは更新されなかったんだろう。
人口が減ってしまったのか、周囲の環境が悪化しすぎたのか。
プロジェクトの人たちが総合的に判断して、実際にコロニーを訪れて決めたのだ。
今、ニライカナイコロニーは更新の工事中だ。
あの頃、プロジェクト局長だったジルゼの判断が違っていたら、ニライカナイコロニーもこうなっていたのかもしれない。
真っ暗で、灰色の町はどこまでも続いている。
あと数年以内に、ここは解体される。
焼け野が原どころではない、跡形もなくなるだろう。
残骸はリサイクルされて、他のコロニーのドームの更新に使われる。
このコロニーは終わるけれど、それが最後じゃない。
ボクたちは入ってきたエアロックから出る。
ちょうど目の前、北の中心にベガが輝いていた。
でも、一万年前の北極星はベガじゃなかった。
いつまでも変わらないように見える星空も、少しずつ確実に変化している。
ボクとカラハーイは、最後にコロニーを振り返り、手を振った。
「さよなら」




