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夜の星のメンテナー  作者: M
5章 ボクの旅立ち

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16 Apr. 14125「カウントダウン」

16 Apr. 25 -嵐ヶ丘-


 青い三輪トラックが家に荷物を運びこむ。一階の作業スペースに十個の箱が積み上がった。

 受取票の確認を終え、トラックは帰る準備をする。


「次に来るときは、もう新しいんですよねー。不思議な感じですー」

「そうだね」

「では、お元気でー」

「さよなら」


 ボクはトラックを見送った。どこまでも気さくなトラックだった。

 一つ一つの箱を丁寧に持って、二階へ上がる。

 全ての箱に「SE2024」と印刷されている。

 ボクの型番だ。



 今日、新しい『僕』が届いた。


 十個の箱から新しい僕のパーツを取り出し、ベッドの上に並べる。

 それぞれが最新技術で作られたパーツで、組み立ては割と簡単だ。すぐに新しい僕の身体が出来上がった。


 ボクは、ベッドに横たわる新しい僕を見下ろす。今の自分と姿形は変わらない。でも、今までのボクとは出力も持久力も段違いだ。ボクの倍くらい長い期間活動できるんじゃないかな。

 ボクの肩の上で、カラハーイがシャラシャラと揺れる。


 ケーブルをボクと新しい僕に接続し、自分の全てのメモリーをコピーする。

 新しい僕のPROMにも、ボクと同じ人格がコピーされているけど、記憶はこうやって引き継がないといけない。

 どんな日課を(こな)してきたか、どんな話を誰としたのか、どんな素敵な物を買ったのか。


 新しい僕の隣に座り、静かに目を閉じる。

 頭の中でコピー終了までの予想時間がカウントされる。あと一時間は動くなと言うことだ。


『三……、二……、一……。

 コピーが終了しました。』


 ボクはケーブルを外し、ラジオをつけた。

 新しい僕の起動までには時間がかかる。コピーしたボクの記憶を整理しつつ、重要な情報を取捨選択しながら、圧縮処理していく。

 圧縮によって、どうしても古い記憶ほど劣化してしまうが、それは仕方ないことだ。

 ボクだって、先代のメンテナーからメモリーを引き継いで、はっきりしない記憶があるんだから。


 空箱を片付け、自分の荷物の最終チェックをする。

 今日の放送はラジオドラマ。前の話とか知らないから、どんな内容なのか全然分からない。

 でも、切ない恋の物語みたい。カラハーイが真剣に聴いている。


 ラジオをつけて二時間ほどが経過した。

 少し前に月が沈んで、もうすぐラジオ放送が聞こえなくなる。

 最後に辛うじて、日付の変わる時報の音だけが聞こえ、サーッというノイズだけが部屋に響く。


「おはよう」


 新しい『僕』が目覚めた。


「おはよう」


 ボクは応える。

 僕はベッドから起き上がる。


「お疲れ様、ボク」


 そう。新しい僕が来てくれたから、ボクは引退だ。


「ありがとう。このへやは、すきにつかって」

「分かった」


 もちろん、ボクの記憶をコピーしたんだから、僕もどこに何があるかは分かっている。


「だいじょうぶかな?」

「もちろん、大丈夫」

「じゃあ、ボクはいくね」

「さよなら」

「さよなら」


 ボクが階段を降りようとすると、カラハーイがボクの肩に飛んできた。


「ついてくるの?」


 カラハーイが頷く。

 新しい僕が淋しい思いをするじゃないか。

 ボクが咎めると、カラハーイは肩にしがみついて離れない。


「僕は大丈夫だよ。素敵な物が沢山あるから」


 僕がそう言って、アンティークラジオに手を置く。


「潜水服も置いていってくれたら良いんだけど」

「これはだめだよ」


 そう言って、ボクと僕は笑う。

 ボクは、こんな風に笑っていたんだ。


「僕は自分で素敵な物を集めるよ」

「わかった。じゃあ、カラハーイ。ボクといっしょにいこう」


 カラハーイがボクに頬ずりする。

 ボクたちは玄関から外に出た。


 もうボクはプロジェクトの整備は受けられない。

 だから壊れていくだけだけど、行けるとこまで行こう。

 さあ、ボクは自由だ。


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