15 Apr. 14124「花うた」
15 Apr. 24 -嵐ヶ丘-
今日はちょっとしたトラブルがあって、かなり遅くなってから家へ戻ってきた。
最近はバッテリー性能が落ちてきて、すぐにヘトヘトになってしまう。
さすがに三千年前のパーツは残っていないけれど、古いパーツと新しいパーツをツギハギにしているせいで、百%の性能を出すことができなくなってきた。
カラハーイが、ボクのゴーグルを片付けてくれた。
お礼を言うと彼女は羽を振って応える。
空になった水筒を真空凍結炉にセットする。前みたいに食洗機に入れなくても良いので、片付けも準備も楽になった。
上着と鞄をハンガーポールに掛けると、カラハーイが肩に乗ってきた。
「つかれたね」
話しかけると、彼女はボクの頬を撫でてくれた。
労ってくれるのが嬉しい。
二階に上がると、カラハーイは机の上に飛んでいく。
彼女は花が好きみたいだ。いつもドライフラワーの下に座って、ボクを見ている。
ボクはいつものように着替えていると、カラハーイがラジオのスイッチを入れる。
何も言わなくても、ボクのルーティンを分かってくれている。
今日のラジオはニュースから。
統合政府の閣僚人事が行われたとか、月で新しい路線が開通したとか。ボクには関係なさそう。
ベッドに腰掛け、足を伸ばす。
ラジオは各地のマイプラ警報を伝えて、音楽のコーナーに移る。
「また、あたらしいうたか」
ボクは呆れる。
最近人気のアイドルがどんどん新曲を発表するので、そんな歌ばかりになる。歌が好きなウナイは喜んでいるみたいだけど、ボクはちょっと食傷気味。
カラハーイは音楽に合わせてシャラシャラと揺れている。
『では、続いての曲は趣を変えて、アーカイブから発掘してきた歌を一曲』
パーソナリティが、次に流す曲の説明をした。
「え……?」
ボクは、立ち上がった。
あの歌だ。
ボクがこのアンティークラジオを手に入れた理由となった歌。
ボクの淋しくて哀しくて辛い時に、寄り添ってくれた歌。
ボクに前を向く気持ちと力をくれた歌。
やっと聞くことができた。
ボクの目標が一つ叶った。
音質は良くないけれど、その分、優しい歌声に聞こえる。
ボクはその歌に聞き惚れていた。
カラハーイも静かに耳を傾けている。
歌が終わる。やっぱり素敵な歌だった。
ボクはとても満足して、ラジオを消した。別の曲でこの感動を上書きされたくなかった。
カラハーイがラジオの上に飛んできて、ラジオの電源をつける。
いつもは、そんなことしないのに。
今日に限って、なんでそんなことするかな。
彼女はラジオをチューニングして、静かなノイズだけ流れるようにする。
「ん、どうしたの?」
すると、ラジオからさっきの歌が流れてきた。さっきよりくぐもっているけど間違いない。
「これ、きみがやってるの?」
カラハーイは頷く。
そうか、彼女は録音ができるのか。自分にスピーカーがなくて声は出せないから、ラジオのスピーカーを使ったんだ。
そんな方法があったなんて。
「きみはかしこくて、かわいいね」
カラハーイは恥ずかしそうに俯く。
今度はスピーカーから断片的な声が聞こえてきた。
ニュースや歌声、ウナイとの会話をツギハギにしたような声。
『いつも』『お兄ちゃんが』『花』『うたで』『うたって』『いるうた』『だから』
この歌が、ボクのよく歌っている鼻歌だと気付かれてしまった。
「すごいや、カラハーイ!」
彼女が喋れるなんて思わなかった。すごいアイデアだ。
こんなにワクワクすることはない。
もっと色々話したい。
でも、ボクのバッテリーはもう残りわずか。早く横にならないと。
楽しみは明日にしよう。
「おやすみ」
『おやすみ』『なさい』
後一年、頑張れそうだ。




