14 May. 14123「カラハーイ」
14 May. 23 -花屋Rosheen-
ボクはニライカナイコロニーにある花屋を訪れていた。ここで、だいたい二か月ごとにドライフラワーを買う。
店長は、一歳の赤ちゃんを背負いながら仕事をしている。赤ちゃんはママの背中で大人しく指をしゃぶっている。
「先週、気象学者さんも来てくれたんですよ」
「しばらくあってないや」
「お元気そうでしたよ。またメンテナーさんと、お店に来たいと仰ってました」
プロジェクトの総裁だったジルゼは、人格をアンドロイドにコピーして、今は気象学者として各地を回っている。
今はどこを旅しているんだろう。
そんなことを考えている間に、店長が手際よく花束を作る。
背中の赤ちゃんが静かにしているなと思ったら、もうおねむのようだ。
「今月のドライフラワーは、アネモネです」
商品を受け取る。アネモネは、ちょっと特別な花。大事に鞄にしまう。
ありがとうとお礼を言って帰ろうとすると、ボクの帰りを遮るように、ウナイが立っていた。
「ねぇ、お兄ちゃん。メンテナーのお兄ちゃん」
懐かしい呼ばれ方に、少しドキッとする。
彼女は五歳になり、妹もできて、すっかりお姉ちゃんらしくなっていた。小さい頃のひいおばあちゃんによく似てきた。
「こんにちは、ウナイちゃん」
挨拶をすると、ウナイは手に持っていた白い箱を差し出した。
「それはなに?」
「ウナイから、お兄ちゃんにプレゼント」
プレゼント?
店長の方を見ると優しく頷いた。つまり、もらっても良いということだろう。
「ありがとう」
その小さな手から、白い箱を受け取った。
思ったよりも軽い。何が入っているのだろう。
「開けてみて、驚くから」
ウナイはキラキラとした瞳で、箱を持ったボクを見つめる。
蓋に手を掛ける。びっくり箱じゃなさそうだ。
そのまま箱を開けると、そこにはコバルト色の羽が横たわっていた。
蝶だ。
よく見ると、その体は細身の人間のような形をしている。蝶型のアンドロイド。
その顔には口も鼻もないが、大きな丸い目が二つ。
「起きて、カラハーイ」
ウナイが呼ぶと、蝶の瞳に光が灯る。目を覚ました蝶は、羽ばたいて箱の中から舞い上がった。
「キレイだね」
ボクは素直にその羽の美しさに見惚れた。まるで妖精が踊っているようだ。
蝶は、くるりと店の中を一周飛ぶと、ボクの右肩に留まる。
「カラハーイっていうんだよ」
ウナイは自慢げに紹介すると、カラハーイはボクの肩の上でお辞儀をした。
カラハーイの動きに合わせて、絹ずれのような静かで心地よい音がする。
「こんにちは、カラハーイ」
ボクが挨拶すると、カラハーイは羽をゆっくりと揺らす。彼女の表情は分からないけれど、ちょっと笑ったような気がする。
「ほんとうにボクがもらっていいの?」
こんな精密で繊細なアンドロイド、間違いなく高級品だ。プレゼントの一言で済むような代物ではない。
店長を見ると「もちろんです」と即答。店長は、何か裏の意図があってこんなことをする人ではない……はず。
「祖父の会社の製品です」
ボクが困惑していることに気付いた店長が、慌てて付け加える。
新商品のテスターをしろってことなのかな?
「絶対に大事にしてね、お願いよ」
ウナイが念を押す。
「わかった」
ボクは原則お願いを断れない。
でも、このお願いは断る必要もない。
「ほんとうにありがとう」
何度もお礼を言って、ボクは花屋を後にした。
肩に座ったカラハーイのわずかな重さが、ボクに支える相手ができたことを感じさせてくれる。
ボクは鼻歌を口ずさみながら、家路を辿る。
ウナイは、ボクが見えなくなるまで見送ってくれた。
「ひいおばあちゃんをよろしくね」




