表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の星のメンテナー  作者: M
5章 ボクの旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/60

14 May. 14123「カラハーイ」

14 May. 23 -花屋Rosheen-


 ボクはニライカナイコロニーにある花屋を訪れていた。ここで、だいたい二か月ごとにドライフラワーを買う。

 店長は、一歳の赤ちゃんを背負いながら仕事をしている。赤ちゃんはママの背中で大人しく指をしゃぶっている。


「先週、気象学者さんも来てくれたんですよ」

「しばらくあってないや」

「お元気そうでしたよ。またメンテナーさんと、お店に来たいと仰ってました」


 プロジェクトの総裁だったジルゼは、人格をアンドロイドにコピーして、今は気象学者として各地を回っている。

 今はどこを旅しているんだろう。


 そんなことを考えている間に、店長が手際よく花束を作る。

 背中の赤ちゃんが静かにしているなと思ったら、もうおねむのようだ。


「今月のドライフラワーは、アネモネです」


 商品を受け取る。アネモネは、ちょっと特別な花。大事に鞄にしまう。

 ありがとうとお礼を言って帰ろうとすると、ボクの帰りを遮るように、ウナイが立っていた。


「ねぇ、お兄ちゃん。メンテナーのお兄ちゃん」


 懐かしい呼ばれ方に、少しドキッとする。

 彼女は五歳になり、妹もできて、すっかりお姉ちゃんらしくなっていた。小さい頃のひいおばあちゃんによく似てきた。


「こんにちは、ウナイちゃん」


 挨拶をすると、ウナイは手に持っていた白い箱を差し出した。


「それはなに?」

「ウナイから、お兄ちゃんにプレゼント」


 プレゼント?

 店長の方を見ると優しく頷いた。つまり、もらっても良いということだろう。


「ありがとう」


 その小さな手から、白い箱を受け取った。

 思ったよりも軽い。何が入っているのだろう。


「開けてみて、驚くから」


 ウナイはキラキラとした瞳で、箱を持ったボクを見つめる。

 蓋に手を掛ける。びっくり箱じゃなさそうだ。

 そのまま箱を開けると、そこにはコバルト色の羽が横たわっていた。


 蝶だ。

 よく見ると、その体は細身の人間のような形をしている。蝶型のアンドロイド。

 その顔には口も鼻もないが、大きな丸い目が二つ。


「起きて、カラハーイ」


 ウナイが呼ぶと、蝶の瞳に光が灯る。目を覚ました蝶は、羽ばたいて箱の中から舞い上がった。


「キレイだね」


 ボクは素直にその羽の美しさに見惚れた。まるで妖精が踊っているようだ。

 蝶は、くるりと店の中を一周飛ぶと、ボクの右肩に留まる。


「カラハーイっていうんだよ」


 ウナイは自慢げに紹介すると、カラハーイはボクの肩の上でお辞儀をした。

 カラハーイの動きに合わせて、絹ずれのような静かで心地よい音がする。


「こんにちは、カラハーイ」


 ボクが挨拶すると、カラハーイは羽をゆっくりと揺らす。彼女の表情は分からないけれど、ちょっと笑ったような気がする。


「ほんとうにボクがもらっていいの?」


 こんな精密で繊細なアンドロイド、間違いなく高級品だ。プレゼントの一言で済むような代物ではない。


 店長を見ると「もちろんです」と即答。店長は、何か裏の意図があってこんなことをする人ではない……はず。


「祖父の会社の製品です」


 ボクが困惑していることに気付いた店長が、慌てて付け加える。

 新商品のテスターをしろってことなのかな?


「絶対に大事にしてね、お願いよ」


 ウナイが念を押す。


「わかった」


 ボクは原則お願いを断れない。

 でも、このお願いは断る必要もない。


「ほんとうにありがとう」


 何度もお礼を言って、ボクは花屋を後にした。

 肩に座ったカラハーイのわずかな重さが、ボクに支える相手ができたことを感じさせてくれる。

 ボクは鼻歌を口ずさみながら、家路を辿る。


 ウナイは、ボクが見えなくなるまで見送ってくれた。


「ひいおばあちゃんをよろしくね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ