13 Mar. 14122「ソリスト」
13 Mar. 22 -4×4砂漠-
ボクは宙に浮かべたボードの上に座る。
足元にはすり鉢状のコンポスト。その中央に、スキャナを結んだ釣り糸を垂らしていく。
コンポストの中には沢山のワームがいて、それをスキャナで数えるのもメンテナーの仕事だ。
バイクは、ワームが顔を出すたびに騒いで大変だった。
その点だけで言えば、ボードは暴れないし、静かに計測ができて良い。
ボクは釣り糸を巻き上げて、スキャナを回収する。最後に鞄からノートを取り出して、ワームの種類ごとの数を書き写す。
「オッケー。つぎへいこう」
誰かと話すわけでもない。独り言を呟いて、ボードの上に立ちあがる。
スイッチを押すと、ボードはゆっくりと移動を始めた。
ワームも順調に増え、近くに新しい巣ができ始めている。もう少しすれば、そこもコンポストになるだろう。
とはいえ、ワームがこの大量の砂を食べ切るにはまだ十万年近くかかる計算だ。
今日調査予定の最後のコンポストの近くまで来た時だった。
「あ……」
思わず声が出る。そこに巨大なワームが横たわっていた。
この大きさはPETワームだ。その名のとおり、プラスチックのPETを食べてくれる。
でも、ワームはピクリとも動かない。スキャナを当ててみるが反応がない。
ボクはプラントへと連絡する。
「ワームみつけたよ」
『了解。大きさは?』
頭と尻尾が砂に埋まっているから正確なことは分からないけれど、この胴体の太さなら、長さは一キロ近いかもしれない。
ワームの比重はプラスチックの砂より軽いので、潜る力がなくなると、やがて砂漠の表面へ浮かんでくるのだ。
「おとなのPETワームで……」
『まじか、了解。ヘリ三機向かわせる』
ボクが言い終わらないうちに返事がきた。
プラントにあるヘリコプターを全機出動させるようだ。
ボクはその場で待つことにした。
ここの座標を伝えたから、もう帰っても良いんだけど、こんな大きなワームを運ぶとこなんて滅多に見れないから、見学させてもらおう。
砂漠の中で一人、しばらく砂の崩れる音を聞いていた。
風を切るローターの音が近づいてくる。
「こんにちは」
ボクが挨拶すると、ヘリは「危ないから下がって」と注意してきた。
このヘリたちは、とても仕事熱心みたいだ。
一機のヘリがアームを伸ばしてワームを持ち上げる。
ずるずるとワームの身体が引き出される。出てきた所を別のヘリのアームで持ち上げる。無言でその作業を繰り返していく。
「おおきいなぁ」
二時間もかかって、やっと全貌が現れた。全長は一キロを超えている。今までボクが見てきた中で一番大きいんじゃないか。
ボクは目の前のワームを見つめる。
これをプラントで乾留処理すると、酸性の強い赤色の結晶が出来上がる。ガーネットだ。
この大きさなら、一年分くらいのガーネットが作れるに違いない。
結局、三機のヘリでも持ち上げられず、別のプラントに応援を頼んだみたい。
これ以上ここにいても、仕方ない。
ボクは最後のコンポストの調査へと向かう。
13 Mar. 22 -嵐ヶ丘-
今日の日課を終え、ボクは家に戻ってきた。
玄関前で自分についた砂を払い落とす。
ボクはブーツを脱ぎ、ゴーグルと鞄と上着をハンガーポールに掛けた。
そして、自分の部屋のある二階に上がる。
「おつかれ」
もちろん応えなんて返ってこない。
ボクは着替えを済ませて、アンティークラジオのスイッチを入れる。
流れてきたのは、月で人気のアイドルの最新曲。
もうすぐ月が沈む。
ベッドに横になって、月からの電波が入らなくなるまでラジオを楽しむ。
それがボクの夜のルーティン。
机の上のドライフラワーの花びらが一つ落ちた。




