25 Jun. 14016「やぎの散歩」
私の名前はヤギという。漢字で書けば八木。
地球環境回復プロジェクトのメンバーであり、ニライカナイコロニーでメンテナーの管理を行っている。
今日はコーラルリーフで、メンテナーから進捗報告と発掘物の提出を受けた。
報告が終わり、メンテナーを一階ゲートまで見送る。
「引き続きお願いします」
「もちろん。じゃあ、またね」
彼の見た目は十三歳だが、三千年以上稼働しているアンドロイドだ。
だが、歳上という感覚はない。人格をコピーした時点で彼らの精神は成長しないからだ。
ぐううぅ
お腹が空いたと警報が鳴る。
ゲートの横の受付アンドロイドに、食堂の日替わり定食の内容を聞く。
「今日は魚のフライ定食とチャンプルー定食です」
「いつも、ありがとう」
また空腹警報が鳴る。どっちにしようか考えながら、エレベーターで七階へと戻る。
執務室に入ったところで、東京コロニーから出張で来ている課長が話しかけてきた。
「ヤギくん、昼飯はどうする?」
美味い店を教えろとでも言うのだろう。それなら偉い人と食べに行けば良いのに。
「いつも外の公園で食べてます」
嘘を吐いた。いつもじゃない、たまにだ。
課長は逡巡する。
「そうか。なら俺は食堂に行くか」
「今日の日替わりはチャンプルー定食です。ここの自慢料理ですよ」
「お、そうか。食べてみよう」
課長はウキウキと部屋を出て行った。
正直、課長とご飯なんて食べたくない。課長には出張初日の懇親会で絡まれた。
「ヤギくんは結婚しないのか? 相手がいないなら東京の子を紹介してやるぞ」
その場は適当にはぐらかしたが、まだ諦めていないと思う。
私は再び一階へ降りて、近くの公園まで歩く。
六月の気温は蒸し暑くもないし、外を歩くにはちょうどいい。
お昼の公園にはキッチンカーやワゴンが並ぶ。
さあ、今日は何食べようかな。
おにぎり、バーガー、丼物、串焼き、フルーツ。軽食から甘味まで揃っていて、何にしようか目移りする。
弁当屋の幟に「名物ザンギ」と書いてある。
ザンギ……知らない料理だ。どうやら唐揚げの一種らしい。
「肉と大豆の割合はどうされますか?」
午後はメンテナーからの報告をまとめないといけない。ちょっと奮発して気合を入れるか。
「肉、百%……いや、八……六十%で」
「了解しました」
結局、日和ってしまった。
ベンチに腰かけて、ザンギ弁当を開く。醤油とニンニクの香りがして、ぐぅと三度目の警報。
早速メインのザンギからいただく。少し大きめだが普通の唐揚げのように見える。
一口かじる。
サクサクとした衣に、ジューシーな肉汁。ニンニクと生姜の香りが口いっぱいに広がる。
これは美味しい。
あっという間に一つ食べ切る。
ご飯も進む。二つ目はもっと味わいながら食べる。
次の給料日には、百%肉にしよう。
少し物足りないが、このくらいの腹具合の方が、午後眠くならなくて良い。
食後は腹ごなしに公園を散歩する。
昼休みのサラリーマンの他にも、ランニングをする人や老夫婦がいて、思い思いに過ごしている。
アスレチックでは子供たちのはしゃぐ声が響き、親たちがそれを見守っている。
「結婚かぁ」
思わず呟く。
確かに結婚して子供を育てるのは、閉鎖された環境で生きる人類の存続にとって不可欠なこと。
人口が減りすぎて破綻しそうなコロニーだってある。
世界の人口が減少し始めたのはコロニーができる前、文明が世界中に行き渡った時からだ。成熟した文明社会では、人は子孫を残そうとしない。
だからこそ、結婚と育児を推進する施策が取られ、幸福な結婚という教育も行われる。
……でも、結婚だけが幸わせだとは思わない。
仕事と結婚したって格好良いじゃないか。
もうすぐ時間だ。
私はコーラルリーフに向かって、散歩道を戻っていく。




