11 Oct. 14121「夢見鳥」
花屋Rosheenに、小さな女の子がやってきた。
「ひいおばあちゃん、こんにちは」
安楽椅子でウトウトとしていた私は、その元気な声で目を覚ました。
夢を見ていた。私は蝶になって真っ暗な空を飛んでいた。
不思議な夢だったと思いながら、女の子に挨拶する。
「ウナイちゃん。いらっしゃい」
ウナイは私の曾孫。四歳になったばかりの女の子。
歯を見せてにっこりと笑うその雰囲気は、私の小さかった頃によく似ている。
続いてウナイの母親である孫娘も店に入ってきた。
「サティばあちゃん、体の調子はどう?」
「ああ。元気だよ」
私は百歳を超え、あまり体を動かせなくなった。日がな一日この安楽椅子に座り、店の様子と街の風景を眺めている。
孫娘はウナイを連れて、毎日のようにお店に来てくれる。
彼女もお花が好きで、この店を継いでくれると言っていた。その準備で、お手伝いに来てくれている。
でも、今はお腹に赤ちゃんがいるから、無理をさせられない。
とはいえ、アンドロイドが手伝ってくれるから、重労働は不要だ。そんなに大きな負担なしに何とかやっていけるだろう。
私みたいなおばあちゃんでも、やってこれたんだから間違いない。
ウナイは私の隣に椅子を持ってきて、ちょこんと座る。
「ひいおばあちゃん。さっき、エンテナさんに会ったよ」
舌っ足らずのウナイは、まだメンテナーが上手く言えない。
お兄ちゃん来てくれてたんだ。
「ふふっ。顔出してくれたらよかったのに」
「お仕事だって」
お兄ちゃんは、今でも二か月に一回くらいのペースで顔を出してくれる。
私は今月もお兄ちゃん用のドライフラワーを準備した。コロニーの外は寒すぎるから、ドライフラワーしか置けないと言っていたからだ。
お仕事が終わったら、取りに来てくれるだろう。
「あたしもお仕事、お手伝いする」
ウナイは椅子から飛び降りると、床に落ちた葉っぱを拾い集めてくれる。
賢い子だから、私も孫娘も床の物を拾うことが難しいと分かっているようだ。
「ありがとうね、ウナイちゃん」
ちょこちょこと動くウナイを見ながら、私は微笑む。
「ウナイちゃんは大きくなったら、何になりたい?」
ウナイは手を止めてこちらに振り返る。
「あたし、歌手になる!」
そして最近人気のアイドルの曲を歌い始めた。
持っていた葉っぱを落としてしまったけれど、歌に夢中のようだ。
サビを熱唱して丁寧におじぎするウナイを見て、私と孫娘は拍手喝采を送る。
「ひいおばあちゃんは、大きくなったら何になりたいの?」
ウナイの可愛い質問に、心がほっこりとする。
この歳になって、もう大きくなることなんてない。やりたいことなんて何もない。
どう答えようか考えていた時、さっきの夢の事を思い出す。
夢の蝶……胡蝶の夢……。
「そうだね……蝶になりたいな」
「ちょうちょ?」
「そう、ちょうちょだよ」
ウナイは嬉しそうに窓の外を指さす。
「お店にもちょうちょ!」
指の先には、大きな花に留まる蝶の描かれた看板。
「ひいおばあちゃんは、ちょうちょ好きなの?」
「大好きだよ」
「ちょうちょになったらお空を飛ぶの?」
「そうだね、お外を飛びたいね」
「お花畑をひ~らひらひ~らひら」
ウナイは保育園で習った歌を歌い始めた。
その様子を穏やかに見ていると、私は再び瞼が重くなってきた。
私が死んだら、蝶のアンドロイドになりたい。
そして、お兄ちゃんの側に居て、お兄ちゃんの役に立ちたい。
ああ、やっぱり私は今でもお兄ちゃんが好きだったんだ。
夫の遺してくれた技術がある。
決して叶わない夢じゃない……。
……きっと……。
「ひいおばあちゃん、また寝ちゃった」
ウナイは声をうんと小さくする。
「おやすみなさい」




