10 Dec. 14069「Dream's a dream」
子供たちはそれぞれに独立し、私たち夫婦はガランとした家で、どこか寂しさを感じていた。
「なあ、サティ。犬飼ってみないか? オレの会社で犬型ロボットを開発したんだ」
「犬ねぇ……」
「気が進まない?」
「それよりも、お店をやってみたいわ」
「楽しそうだな」
そんな他愛もない夫婦の会話を、一本の電話が遮る。
「パパが倒れたって!」
私たちは、急いでニライカナイコロニーへと向かった。
パパは入院していた。倒れたのは、お店を片付けている時だったらしい。
重度の心臓疾患。
私たちには通院を隠していた。
「黙っててすまなかった」
ベッドの上でパパが申し訳なさそうにする。
目の下には大きなクマができていた。
余命半月。家族が呼ばれ、医者からそう説明を受けた。もう退院はできないだろうと。
「未だに治せない病気があるなんて、人類の医学もまだまだね。」
私がそう毒づくと、パパは「そうだな」と力なく呟く。
「まだ、やりたいこととかあるでしょ?」
「心残りと言えば、ひ孫が見れなかったことかな」
どう声を掛けて良いか分からなくなる。
「オレの会社で人格のコピーができます。お望みのアンドロイドに人格を移せますよ。」
夫の提案に、パパは首を横に振る。
「メンテナーさんみたいになるってことだろう」
「はい。そうすれば、やり残したことをやり遂げることが……」
「いや……そうなっても、それはもう自分じゃないんだ」
パパの言ってることは、私にも少し分かった。
夫もそれ以上は勧めない。
「すまないが、サティと二人で話したい」
パパの言葉に、夫は「終わったら連絡をくれ」とだけ言って、病室を出ていった。
二人きりでパパと話すなんて何十年ぶりだろう。
「サティ……」
「ん、何?」
「謝りたいことと、お願いがあるんだ。」
あまり嬉しくない話の入り方。
「墓場まで持っていきたかったんだが、心苦しくてな……」
私は息を吐いて、心の準備をする。
「大丈夫。ちゃんと聞くよ」
パパは話す前から涙ぐむ。
「お前がメンテナーさんを好きになった時、メンテナーさんにお前と会わないようにお願いしたんだ。すまなかった」
私の思考が一瞬停止した。
「は?」
あの頃、あんなに私が苦しんだのは、パパのせいだったの?
お兄ちゃんともっと話がしたかったのに。お兄ちゃんの笑顔がもっと見たかったのに。
それを潰したのがパパだった。
怒りでも、悲しみでもない。私を空虚が包む。
「でもな。今のサティに繋がったと思うと、後悔はしてないんだ」
ああ、パパは謝りたかったんじゃない。
自分がやったことを、私に正当化して欲しかったんだ。
確かに、私は今とても幸わせだ。優しい夫、頼もしい子供たち。充実した毎日。
「そうね。今さらね、そんな話」
「ありがとう」
私の答えに許されたと思ったパパは満足そうに頷いた。
それがなければ……、私にはお兄ちゃんと結婚する未来があったのかもしれない。お兄ちゃんと幸わせに暮らしていたかもしれない。
でも、それは夢物語。
夢は夢。
「そ、そんなことより、パパは病気のことを黙ってたじゃない。それは絶対に許さないから」
私がジト目で睨むと、パパは「すまない」と一言だけ。
「で、お願いっていうのは?」
「サティ。あの店を使ってくれ」
「私には骨董品の価値は分からないわ」
「いや、何の店でも良い。ただ、あの場所をいつまでも残してあげたいんだ」
誰のために?
私は勝手にお兄ちゃんのためだと思った。
「分かったわ」
それから、パパは一か月頑張った。
穏やかで満足そうな顔だった。
お店でのお葬式には、常連さんや近所の人が来てくれた。
みんなでパパを見送ることができた。
三か月後、ロシーン骨董品店のあった場所に、Rosheenという花屋が開店した。




