8 Apr. 14051「ドロリーナ・ジルゼ」
8 Apr. 51 -嵐ヶ丘-
今日の日課を終え、ボクはボードに乗って家に帰る途中だった。
ボードは、スノーボードみたいに砂の上を音も立てずに滑っていく。
このボードには、ちゃんと推進機能や浮遊機能もあるので、プラスチックの砂漠の上を進んでいくには何の問題もない。
まあ、バイクほど速くはないし、バイクみたいに話し相手にはなってくれないけど。
もうすぐ家に着く。
その時、少し離れた砂丘の上を動く影が見えた。星明りがその影を照らす。
「ひとだ!」
ボクは叫んで、ボードを方向転換する。
その人影は砂漠の中を一人で歩いていた。
最高速度でそこへと向かう。
「やあ、こんにちは」
そう挨拶してきた人影は、不思議な形のアンドロイドだった。
頭部はヘリコプターの羽根が上下に二組並んでいるだけ。その下には女性を想像させるようなボディライン。
ハイヒール型の反重力装置で砂漠を歩いてきたようだ。
「なんでこんなところへ?」
砂漠で誰かに会うなんて、ここ千年無かったことだ。
少なくとも千年前みたいな遭難した探検家とかではなさそうだ。
「俺は、旅をしながら地球の気象を調査している」
見た目に反した尊大な物言い。こんなしゃべり方をする人をボクは知っている。
「協力してくれないか、少年」
「もしかして……、ジルゼさん?」
彼には顔がないから分からないけれど、多分ニヤリと笑った。
そのまま、ボクの家に案内する。
「そうか、少年はこんな所で住んでいたのか。……吹きっさらしじゃないか」
「すめばみやこですよ」
一階の作業スペースで、彼に椅子を勧める。
「せまくて、すみません」
「気にするな。しかし、少年と出会えて本当に良かった」
ボクは気になったことを聞く。
「そのからだは、どうしたんですか?」
「俺は去年死んだ」
やっぱり。
「で、死ぬ前の人格をコピーしてアンドロイドに移してもらったんだ。少年と同じだな」
彼はそう言って笑う。
「俺は飛行バイクにして欲しいって言ったんだが、今どきバイクなんて作ってないからと却下になってしまった。で、このボディだよ」
生前と見た目は似ても似つかない。それなのに、しゃべり方は変わらない。
「このアンドロイドは、ドロリーナタイプと言うらしい。昔のドローンを参考にしていて、気象観測に適しているんだと」
彼はヘリコプターの羽根だけの頭部をボクに近づける。
ちょっと怖い。
「だから、これからの俺は『気象学者』だ。よろしく」
「よ、よろしく」
「地球の気象を調査するプロジェクトの調査員だから、どこにでも行ける。探検家みたいなものだな」
どこへでも行けるなんて、羨ましいな。
ボクもいつか、旅をしてみたい。
「千年ほど前の先祖が探検家だったらしい。その血が俺に旅をさせようとしているのかもしれない。まあ、その先祖は何度か遭難してたらしいから、そこは似ないようにしたいがな」
気象学者が声色を変える。
「そう言えば、レディはどこだ?」
ボクは首を振る。
「古いってことは……そういうことか」
落胆する気象学者を見て、ボクはもう一度首を振る。
「いいえ、いまからコロニーへいきましょう」
8 Apr. 51 -ニライカナイコロニー-
ボクたちは、コロニーに入ると一直線に骨董品店に向かう。
気象学者は、懐かしそうにニライカナイコロニーの風景を見回す。
ロシーン骨董品店のショーウィンドウの中で、ボクたちを見つけたバイクがライトをカチリと光らせた。
気象学者のテンションが上がる。
「レディ。こんな所に美しく飾られて、幸わせそうだな」
バイクも、気象学者が誰なのか一発で分かったようだ。
お店に入ると「少々お待ちください」という懐かしい女性の声。
「こんにちは」
ボクは挨拶をしながら微笑んだ。




