8 Apr. 14051「10years」
結婚から十年。
私は四人の子供に恵まれ、子育てに奮闘していた。
毎年春休みには、私たちは子供を連れてニライカナイコロニーへ里帰りしている。
「サティ、ちょっと太ったんじゃない?」
「仕方ないでしょ。子供の残り物を食べてたら、どうしてもこうなっちゃうんだって」
「うちもそうー」
今年は久しぶりに会った友達と、子育て談議に花を咲かす。
「今日お子さんは?」
「パパと夫に任せてるわ」
「旦那さん大丈夫?」
「うーん、そろそろ心配かなぁ。うちの子たち元気だから」
そう言って、みんなで笑う。
それから一時間ほど話して彼女たちと別れると、ロシーン骨董品店へと急ぐ。
お店のショーウィンドウには、千二百年前のオープン型の飛行バイクが飾られている。丁寧に整備されて、いつでも飛べそうだ。
バイクさんは私を見つけると、ショーウィンドウの中からライトをカチリと光らせる。
「お帰り、サティ」
お店の中に入ると、ちょっと疲れた様子のパパが出迎えてくれた。
床には色んな商品が散らかっていた。子供たちが遊んだのだろう。
見たことのない古い物だらけのおじいちゃん家は、子供にとってワンダーランドだ。
「パパ。ありがとう、おかげで友達とゆっくり話せたわ」
「子供たちは婿さんが寝かせてくれてるよ」
そう言ってお店の奥の方を指差す。
ちょうど昼寝の時間だ。きっと、はしゃぎすぎて疲れたのだろう。
「かなり楽しんだみたいね」
「ああ、商品を壊されなくて良かったよ。ちょっと休憩してたんだ。サティも飲むかい?」
パパがコーヒーを持ってきてくれた。
「ありがとう。片付けは手伝うわ」
「頼む」
テーブルの上で倒れていた万年カレンダーをカウンターに戻す。
二人で座ってコーヒーを飲む。
「パパ、一人暮らしは淋しくない?」
「大丈夫だよ。お客さんもいっぱい来てくれるし」
沢山のお客が来るような店じゃない。そうじゃなきゃ、店の中で子供を遊ばせるようなことはしない。
「私がいるので、淋しいはずがないですよね」
ショーウィンドウからバイクさんが反応する。
パパは笑いながら頷く。
「もちろん、そうだよ」
「パパさんは毎朝、私のご機嫌伺いからお店の準備をするんです」
私は苦笑する。
きっとバイクさんは、私に余計な心配をさせないように、ああ言ってくれたんだろう。
「なんだか、パパが若い子に色目使ってるみたいじゃないの」
「な、そんなことはない。商品を大事にしてるだけだぞ」
パパが慌てるので、余計笑えてくる。
私はちょっと意地悪な質問をする。
「もし、バイクさんを買いたいって人が現れたらどうするの?」
「世界で一台だけの貴重なバイクだからね。とても高いから。誰にも買えないくらい……」
そこまで言いかけると、パパは小首を傾げてちょっと考える。
「いや、ジルゼさんになら売っても良いかな」
「それなら、私も嬉しいです」
バイクさんも賛同する。
ジルゼさんは、プロジェクトの総裁を引退したというニュースは見たが、その後のどうなったかは知らない。
「ジルゼさんってどうしてるの?」
「いや、連絡がないんだ。もう高齢だし、少し心配しているんだが」
「あんなにパワフルな人なんだから、ひょっこりやって来そうだけどね」
「だと良いんだが……」
不安そうな顔を見せるパパを元気付けようとするけど、あんまり効果がないみたいだ。
「そうですね。きっともうすぐ会えますよ」
バイクさんがそう呟いて、ライトをカチリと光らせる。
お店の扉が開く。お客さんだ。
散らかった店内を片付けなきゃ。
「少々お待ちください」
私とパパは立ち上がって、コーヒーのカップを重ねる。
「こんにちは」
この声は、お兄ちゃんだ。




