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夜の星のメンテナー  作者: M
4章 サティの幸わせ

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7 Dec. 14043「ラブレター」

7 Dec. 43 -嵐ヶ丘-


 嵐ヶ丘に建つボクの家は、飾りっ気のない二階建ての一軒家だ。

 バイクはいつも一階の作業スペースにいて、二階のボクの部屋へ上がってきたことはない。

 今日は「どうしても二階に上がりたい」と言うので、ボクの部屋に招待した。


「そうだろうと思っていましたが……やっぱり物が多いですね」

「いいじゃない」

「これからマイプラ濃度が上がりますから、風の無いうちに外が見たいです」


 今日はマイプラ警報が出ている。

 窓を開けて、二人で外を眺める。一階から見える景色とほぼ同じだとは思うけど。


「いえ…、ここの方が星空が広く見えます」


 そう言って、バイクはじっと空を見つめる。


「ベテルギウスが明るいですね」


 赤色巨星のベテルギウスは、不規則に脈動する変光星。十万年以内に超新星爆発すると予測されている。

 とはいえ、今はそこまで明るくない。


「そうだね」


 ボクは知っている。もう彼女は細かい光を正しく見ることができない。

 整備のたびに様々な部品を組み替えてきたから、相性が良くない部品が増えてきた。

 バイクに乗って空を駆けることはもう難しい。

 代わりに、プロジェクトから新しくボードが支給された。これは砂の上をスノーボードで滑るように進んでいく。


「最後に同じ風景が見られて良かった」


 バイクが呟く。

 明日、彼女を骨董品店に引き取ってもらう。

 嵐ヶ丘で厳しい環境に晒されるよりは、暖かいコロニーで店主に大事にしてもらった方が彼女にとって良い。

 ボクとバイクで相談して決めたことだ。


 しばらく二人で星を見ていた。


「私は四人姉妹の長女でした。自分で言うのもなんですが、真面目でしっかり者のお姉さんでした」


 バイクが自分のことを話し出す。初めてのことだ。


「その性格がバイクメーカーに認められたのです。私は人格をコピーされ、スティンガーZに搭載されることになりました」


 生きている人間の人格をコピーして、アンドロイドやマシンに搭載することは当たり前。ボクも同じだ。


「女の子の人格をこんなゴツいバイクに搭載するなんて、当時の担当者は何考えてたんでしょうね。でも、当時は割と人気だったんですよ。同じ型が数千台以上作られました」

「へえ」

「そんな仲間ももういません。千二百年たって、私が最後の一台だそうです」

「うん」


 バイクは窓から離れて、ベッドの近くへ降りる。

 ボクも椅子に腰掛ける。


「本当は手紙を書きたかったのですが、残念ながら私にそんな機能はありません。メモリに書き込んだ文章を読みます」

「きかせて」


 バイクはこちらを向いて、居住まいを正す。


「あなたは、千年の暗闇から私を救い出してくれた。そして、バイクとしての仕事を全うさせてくれました。本当に感謝しています」

「こちらこそ、てつだってくれて、たすかったよ」

「手紙なんですから、読み終わるまで黙っててください」

「あ、ごめん」


 彼女はふんすっとして、改めて頭の中の手紙の続きを読み上げる。


「あなたに連れて行ってもらったところは、どこも新鮮でした。出会った人たちも、みんな温かくて良い人ばかりでした」


 ボクは黙って頷く。


「ダイヤモンドダストの赤い柱、緑色の泉、泉の底から見た青色。灰色の世界にも、こんなに美しい風景に出会えた。あなたと会って、私は本当に幸わせでした。あなたはいつも穏やかで、とても優しかった。私は何度も救われました……」


 バイクが少し沈黙する。


「大好きです」

「ありがとう」


 あ、喋っちゃった。

 ボクが口を押さえると、バイクは笑う。


「そんなあなたが、また孤独になることが辛いです」

「だいじょうぶだよ」


 バイクは外を見る。


「風が吹いてきましたね」


 窓を閉めると、部屋の空気が止まる。

 代わりに窓に砂が当たる音が響き始めた。


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