6 Apr. 14041「飛花落花」
四月になるとさらに暖かくなり、過ごしやすい季節になった。
公園の桜が満開を迎え、散り始めている。
風に舞う花びらの中、パパは私と腕を組んでバージンロードを歩く。
「まさか、サティが卒業すぐに結婚するとは思わなかった」
「こういうのは、思い切った方が良いのよ」
「サティらしいな」
そう。今日は私と彼の結婚式。
純白のドレスは、胸と腰に大きな蝶結びのリボン。歩くたびに羽ばたくように揺れる。
緊張した面持ちで待つ彼のもとへ、一歩一歩進んでいく。
私たちは、お互いの友達が多いニライカナイコロニーで挙式をすることにした。
場所は、子供の頃によく遊んだ公園。そこに机や椅子を並べてガーデンウェディングだ。
お互いの家族や、スクール時代の友達が集まる。カレッジの友達も東京コロニーから来てくれた。
私たち二人は、大きながじゅまるの樹の前に並んで愛を誓う。
桜の花びらが空を飛んで舞い落ちる中、私と彼は指輪を交換し、みんなの祝福を受ける。
「「おめでとう!」」
そのまま披露宴が始まる。
お色直しは、ワインレッドの花柄のドレス。子供の頃にお気に入りだったワンピースをリメイクして、パーティドレスに仕立て直した。そして、蝶の髪留めをブローチにして胸に留めている。
スクール時代の女友達は、かしましく盛り上がる。
「サティとっても綺麗よぉ」
「彼って、ずっとサティの事を好きだったんでしょ。一途よね」
「純愛だわ、羨ましいー」
「私たちも早く相手見つけないと」
パパは、久しぶりにお酒を飲んで上機嫌だ。隣に座るお兄ちゃんにお酌をしてもらいながら、絡むように話している。
「この辺は一月頃に咲く彼岸桜が多かったんだ。コロニーができると、いろんな地方の人が集まるから、春に咲く桜が増えていって……」
お兄ちゃんの左眉が少し下がる。
大昔の話をしたがるのは、パパが淋しい時。ジルゼさんが月に帰った時も、私にジュゴンの話をしてくれた。
私は新郎新婦席から、パパとお兄ちゃんの様子を微笑ましく見つめる。
地球環境回復プロジェクトの総裁となったジルゼから、お祝いのビデオメッセージが上映されると、みんなが腰を抜かすほど驚いていたのが面白かった。
統合政府の首脳陣の一人が知り合いだなんて、ちょっとした自慢になった。
最後に、それぞれの家族へ感謝の言葉を伝える。彼のスピーチが終わり、私の番がきた。
「パパへ。私を一人で育ててくれて、本当にありがとう」
私は一呼吸置く。
「どれだけ言葉を重ねても、この感謝の気持ちは言い足りません。物を大切に使うこと、古さの中にある価値を教えてくれました。そして、どんな時も私の支えになってくれました。おかげで私はここまで来られました。沢山の思い出を作ってくれて、ありがとう。今日、私はその全てを胸に、」
そこで胸に手をやると、蝶のブローチに触れる。胸の奥から想いが込み上げてくる。
「……彼と新しい道を歩き始めます。これからも私たちを見守ってください」
パパは柄にもなく声を上げて泣き始めた。
私もつられて涙ぐむ。
彼は私の肩を抱いて、しっかりと支えてくれる。この人で本当に良かった。
大いに盛り上がった祝宴が終わり、来てくれたみんなに、私が作ったオリジナルブーケを配る。
お兄ちゃんに花束を手渡す。嬉しそうに笑ってくれた。
「これはアネモネだね」
「そうよ。花言葉は『純真無垢』。お兄ちゃんをイメージしたの。お兄ちゃんはずっとそのままでいてね」
「ありがとう。サティがしあわせそうでよかった」
「私、幸わせよ。とっても」
でもね、お兄ちゃん。アネモネには他にも花言葉があるの。
一番有名な花言葉『儚い恋』……。
ありがとうお兄ちゃん。ありがとう初恋。




