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夜の星のメンテナー  作者: M
4章 サティの幸わせ

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34/44

4 May. 14038「藍に深し」

4 May. 38 -4×4砂漠-


 今日は休み。

 だけど、ボクたちはプラスチックの砂漠へと来ていた。

 コンクリートの岩場で、バイクに積んだ袋を下ろす。袋から取り出したのは潜水服だ。


 店主からは、オーバースペック過ぎて使われなかったと説明された。古いけれど、最新の宇宙服すら超える性能を持っていると。

 宇宙服並みの耐久度と気密性、そして、宇宙服を超える耐圧性と耐蝕性を持った超々深度用のフル装備潜水服。


「嬉しそうですね」

「もちろん」


 ボクは潜水服を着込む。砂が入ってしまったけど、少々なら何ともない。

 フルフェイスのヘルメットを被る。正面のシールド部分は、まるで古い潜水艦の丸窓のようだ。水が入らないように各部を厳重にロックする。


 バイクに命綱を結び、その綱にぶら下がって目的地まで飛んでいく。

 潜水服を着ているからブーツが履けない。となると砂に沈んでしまうから、こんな風に移動しなきゃならない。


「重たいです」


 バイクがそう愚痴る。けれど、プロが整備しているから段違いに出力が上がっていて、そこまで苦にはならないはず。最近の不調のせいじゃないと信じたい。

 仕事じゃないから一人で来るつもりだったけど、バイクに来てもらって正解だった。


「ほんとにありがとう」


 ボクは何度もお礼を言う。

 月の下をしばらく飛ぶと、青い泉が見えてきた。もっと中性に近づいた緑っぽい泉の方が理想だけど、ちょうど良い角度の泉は、ここだけだから仕方がない。


「つなをひいたら、もちあげて」

「分かりました。決して無理しないでください」

「もちろん」


 命綱を頼りにして、スルスルと泉の淵まで降りる。

 そして淵に腰掛けた。

 足が水の中に浸かる。潜水服越しに、じんわりと水の圧力を感じる。


 ここから見る泉は、青く澄んでいた。

 美しく見えるが、この青は強いアルカリ性を示す。氷点下五十度でも凍らないほど濃度の濃い危険な液体だ。

 直接触ると、耐性のあるボクの人工皮膚でも溶けてしまう。もし内部に液体が入れば、徐々に全てを溶かされるだろう。

 それでも、ボクは泉に潜ってみたかった。

 背中に背負ったボンベの空気圧を再確認する。


「よし。いってくる」


 ボクは、空中のバイクに手を振ると、泉の中に飛び込んだ。


  こぽこぽこぽ……


 服についていた空気が、玉になってゆっくりと水面に向かって上がっていく。

 数メートル潜ると、星の明かりが届かなくなった。

 ボクはさらに深く深く沈む、水はインディゴブルーに、そして藍色へと変わった。


 左腕についているライトを点灯する。

 泉の壁は、プラスチックの砂粒が溶けて緩やかにくっついているようだ。


 底だ。十数メートルは潜ってきただろうか。

 緩やかに着底する。

 足元でプラスチックの砂が舞い上がっている場所がある。ここから泉は湧き上がっている。何度砂に埋もれても、青い水は地表へ伸びて丸い泉を作る。


 何の音も聞こえない。

 静かで、藍色で、深い水の中。


 水面を見上げると、仄かに暗い円が見える。もう少しすると、その円の中にまん丸な月が架かる。

 その光は底にまで届くはず。

 ボクはその時を静かに待った。


「……」


 その時はすぐにやって来た。

 月が顔を見せ、射し込む光。

 照らされた水はセレストブルーに輝く。

 わずかな風で水面が揺れて、泉の底に複雑な模様を描き出す。


 ボクは異世界に居るような錯覚を感じた。

 わずか十分ほどで、再び暗い藍色に包まれる。


 ボンベの弁を開き、圧縮空気で浮袋を膨らませると、身体がゆっくり浮上し始める。

 水面まで戻ってくると、バイクが命綱を引き上げてくれた。


「いかがでした?」

「キレイだったよ」


 あの光景を表現するには、ボクの語彙力が足りない。

 バイクが諦めたように言う。


「後で映像見せてください」


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