3 May. 14038「Tokyo Happy Girl」
私は東京コロニーにある農業系のカレッジへ進学した。園芸学科で花や野菜について学んでいる。
研究室の花畑には、私が育てたすみれ色の花が一面に咲いている。
「サティ、ここにいたんだ」
ルームメイトが呼びに来た。みんなで新しくできたスイーツ専門店でパフェを食べに行く約束をしていた。
「五分ちょうだい、着替えてくるから」
私は土のついた軍手を脱ぎ、花畑から出る。
顔を洗い、リップを引き直すと、作業着を脱いで、まとめていた髪を下ろした。
「さあ、行こう」
カレッジでは新しい友達も沢山できた。
東京コロニーには楽しい所がいっぱいあって、毎日飽きることがない。
ルームメイトたちと西瓜のパフェを堪能し、おしゃべりの後はショッピングモールで買い物。
お互いに買った小物を自慢していたら、あっという間に夜になった。
夜になっても街の活気は変わらない。みんなで、カラオケに行こうと相談を始めた。
端末に着信。彼からだ。
「ごめん。ちょっと人と会ってくるから、私はここで」
「おや、サティさん。彼氏ですか?」
「ふふっ、違うわ。ニライカナイで同じスクールだった人」
「幼馴染ってやつですねー」
ひゅーひゅー言われながら、送り出される。いつものことだから私は動じない。
地下鉄で二駅行った所で待ち合わせ。
ここはオフィス街で、夜は割と静かな場所になる。とは言え、あちこちのビルの窓から光が溢れ、街は眠っていないことが分かる。
クジラが好きだった彼は、東京コロニーでロボットエンジニアになっていた。
身長も随分伸びて、傍目からは好青年に見える。
「やあ、サティ。これ見てよ」
彼の指差す肩の上には大きな蛾がとまっていた。
「なにそれ。そんなものを見せるために呼び出したの?」
私がドン引きしていると、彼は慌てて説明を始める。
「あのな。これは、オレが作った蝶型ロボットだよ。このサイズで実現したのはすごいことなんだぞ」
「それ、蝶なの?」
私は笑ってしまった。色味のない紙を貼っただけの羽に、蝶らしさは全くない。
彼には、もう少し美的センスが必要だ。
「このサイズに地磁気発電機を搭載していて、本物の蝶みたいに方角を……」
「はいはい。難しいことは良いから」
そもそも、数千年前から地球の磁気は弱くなっていて、磁石は南北を指さなくなった。
売っているコンパスは、ロックした座標の方向を指し示す物ばかりだ。
地磁気発電機が、意味のある機能だとは思えない。
「いやぁ、本当はクジラを作りたいんだけどさ。海がないから作る意味がないって言われて」
彼が諦めた顔をするので、私は上を指差す。彼もつられて上を向く。
「空を泳がせば良いんじゃない?」
「そうか、空か……機能部分を圧縮して、本体を風船みたいにすれば……」
端末を取り出してメモを書き始める彼を見て、面白いなと思う。
お兄ちゃんが古い機械の話をしている時も、パパが骨董品をいじっている時も、彼がロボットの研究をしている時も、まるで同じ。
いくつになっても、好きなことになると夢中になっちゃうんだろうな。
「男の人ってみんな、自分たちのしたいことをちょっとやりすぎると、あなたは思わない?」
「そうかな……。そうかもな」
メモを書く手を止めた彼は、私の方を見た。
「どうしたの?」
「サティ。オレ、まだ気持ちは変わってないから」
「私もよ」
彼は、ちょっと驚いた顔をする。そして自分の勘違いに気が付き、ごまかすように笑う。
「ああ、そっか。サティには好きな人がいたんだったね。そういうことか」
「そういうこと」
私は頭に手を伸ばす。
でも、そこにはもう蝶の髪留めはなかった。
いつから付けてないんだろう。どこかにしまって、思い出せない。




