2 Nov. 14035「スティンガーZ」
2 Nov. 35 -ロシーン骨董品店-
ボクは、久しぶりに骨董品店を訪れた。
「こんにちは」
「いらっしゃい、メンテナーさん」
今日はボクからお願いして、お店にやって来た。店主は、サティがスクールに行っている時間帯を指定した。
お店を見回す。雰囲気は変わっていない。
骨董品の合間に、コスモスやガーベラが飾られている。もうすぐプルメリアの花が終わりそうだ。
「最近は、骨董の花瓶と花がセットで売れるんだ。サティのおかげだよ」
店主が笑う。笑顔が変わっていないことが嬉しい。
ボクは花瓶の一つを机の上に置く。
「あの子は東京のカレッジへ進学して、花について勉強すると言い出した」
「サティらしいね」
店主はバツの悪そうな顔を見せる。
「メンテナーさんのことが嫌いな訳じゃないんだ。ただ……サティが心配でね」
「だいじょうぶ、わかってる」
ボクがそう答えると、店主もほっとした表情になる。
「バイクさんを見させてもらうのは初めてだな」
ボクと店主は店の外に出て、停めてあるバイクへと向かう。
バイクは心なしか緊張した様子で佇んでいた。
店主が近付くと、バイクは改まった口調で挨拶する。
「お願いいたします」
「では、失礼しますね」
店主は、バイクのフレーム、モーターやカウルの裏まで確認する。
「かなり手が入ってるが、間違いなくスティンガーZの後期型だな」
店主はカタログを片手に、再度確認する。
「え? きみ、スティンガーZっていうの?」
ボクは初めて知った。
バイクは恥ずかしそうに答える。
「名前というか、型名です」
「とってもかっこいいじゃない! ごめんね、ずっとバイクってよんでて」
「良いんですよ。私たちの名前なんて特に重要ではありませんから」
「まあ、そうだね」
ボクとバイクは笑った。
店主もメモを取りながら、バッテリー周りの電圧を確認する。
「整備もしっかりされていて、状態は悪くない。千二百年前の車両とは思えない美しさだよ」
「ありがとうございます」
バイクは丁重にお礼を言い、ライトを消す。
そんな彼女を外に残して店に戻ると、店主は首を横に振った。
「最新パーツとの組み替えのせいで、ソフトウェアとの不整合が起きてる。これはどうしようもない」
「やっぱり」
彼女はライトを点滅させてパチクリとすることができなくなっていた。
「でも、まだまだ現役で飛べると思う」
店主はボクを励ますように言う。
「そうだね」
「では最後に、アレの話をしましょうか」
店主は楽しそうにショーウィンドウの方へと歩いていく。
アレとは、ボクがこの店に来たもう一つの目的。今までやりくりして貯めてきた報酬をつぎ込む。
購入手続きが終わると、ボクはバイクに大きな袋を積んだ。
バイクが「また、狭くなる」と愚痴るけど、ボクは聞こえないふりをした。
店主が、ボクに小さな箱を渡す。
「これは地球儀。おまけ……というか、お詫びかな」
「ありがとう」
ボクは手を振って店を後にする。
鼻歌を口ずさみながら、バイクを押していく。
***
午後になって、サティが帰ってきた。
「潜水服がなくなっている! 売れたの?」
「ああ。やっとな」
ショーウィンドウが空っぽになっている。
「あんなの買う人いるんだ」
「好きな人は、好きなんだよ」
店主は言葉を選ぶ。
サティは、机の上の花瓶をじーっと見つめる。小首を傾げて止まっている。
「……パパ。お兄ちゃん来たんでしょ」
「な、何を言ってる。そんなことはないよ」
「ホントに?」
「本当だよ」
「お兄ちゃんが来たら、すぐに連絡してよ!」
「分かってるよ。さあ、次にショーウィンドウに何を飾るか考えないとな」
そう言いながら、店主は工房に戻る。そして椅子に腰掛けると、深く深く大きなため息を吐いた。




