1 Oct. 14035「東京ドリーム」
「ねえ、お兄ちゃん。私よ、サティよ!」
お兄ちゃんはいつもの笑顔。
私が駆け寄っても、きょとんとしている。
「お兄ちゃん!」
私は大好きなお兄ちゃんの顔を見つめる。
お兄ちゃんの左の眉が下がっていく。困った時の癖だ。
「キミはだれ?」
お兄ちゃんは私のことを忘れてしまっていた。
なんで、どうして? お兄ちゃん酷い……。
……
「サティ、起きなよ。もうすぐ着くよ」
友達に揺り起こされて、目が覚めた。
「夢……?」
私は列車の中で眠っていたみたい。
友達には気付かれないように、そっと涙ぐんだ目を拭った。
修学旅行帰りのリニア超特急の中。
私は疲れが出て眠ってしまったらしい。昨日は夜遅くまで友達と話し続けたからに違いない。
それにしても嫌な夢だった。
スクールの十一年生の修学旅行は、二泊三日の東京コロニー旅行だ。
東京コロニーとニライカナイコロニーは、シンカンセンと呼ばれるリニア超特急で繋がっており、二時間弱で到着する。
「シンカンセンって、耳がつーんとするから苦手」
「列車の外は真空だから、気圧が低いせいよ」
「詳しいわね」
「あの子の彼氏、鉄道マニアだから」
「マジで?」
友達とそんな話で盛り上がる。
シンカンセンは、地下に通された真空チューブの中を電磁石の力で浮いた状態で走る列車だ。空気抵抗も線路との摩擦も無いため、瞬間最高時速千キロで穴の中を飛んでいく。
「楽しかったね、東京」
「サティは東京初めてだったんでしょ」
「そうそう」
話は、旅行の振り返りに変わる。
東京コロニーは世界でも指折りの大きさのコロニーで、ニライカナイコロニーの五倍の人間が暮らしていて、街の活気もすごかった。
見たことのないものをたくさん見た。とても高い塔や大きなお城には圧倒された。動物園があって様々な動物を実際に見ることができた。
「象とかデカすぎでしょ」
「あと、あれ凄かったよね。結婚式!」
友達が興奮ぎみに話し始めた。
最終日に通りすがったチャペルで行われていた結婚式だ。
「アンドロイドと結婚する人がいるなんて、びっくりした」
「東京って沢山の人がいるから、変な人もいるんだよ」
「信じられないよね」
私の心がチクリとする。
スクールでは、私たちの使命は人類という種を十万年後に残すことだと習う。各コロニーにある水族館や動物園が箱舟であるように、太陽が再び地表を照らすまで人類を存続させなければならない。
だから、アンドロイドと結婚する人なんて変。みんなそう思っている。
でも、私の大好きなお兄ちゃんはアンドロイド。
「そうかもね……」
私は曖昧に相槌を打つ。でも、手のひらにはじっとりと汗。
お兄ちゃんとは、もう数年会っていない。
私はまだお兄ちゃんが忘れられない。
夢にまで見るようになった。
一度、お兄ちゃんに連絡をしてみようとパパの端末を触ったこともある。
画面に表示された「メンテナー」の文字。通話ボタンを押せばお兄ちゃんと話せる。
私からだと驚くかな?
なんて言ったら良い?
どうしたら会えるかな?
緊張して手が止まる。止まっている時にパパに見つかってしまった。
しこたま怒られて、パパは端末をロックするようになった。
あの時、お兄ちゃんの連絡先を控えておけば良かったと後悔している。
あと三分でニライカナイコロニーに到着するとの車内放送。
「さあ、降りる準備しよう」
私たちは荷物をまとめ始める。
「また東京行きたいね、サティ」
友達にそう言われて、私は少し考えた。
私たちは来年度末にはスクールを卒業し、就職したり、カレッジに進学したりする。
「私、卒業したら東京コロニーのカレッジに行くわ」
東京コロニーでは、アンドロイドと結婚式を挙げる人がいる。
私の夢を叶えられるかもしれない。




