30 Jul. 14033「ダンシャリアン」
30 Jul. 33 -嵐ヶ丘-
ボクは一階の作業スペースの片付けをしていた。
シャッター周りに残っていた細かいガーネットを掃除し、工具箱や修理中の機械を棚の近くにまとめる。
「一階が広くなって良いですね」
手伝えないバイクは、楽しそうにボクの片付けの様子を眺めている。
青い三輪トラックの「こんにちはー」と言う声が聞こえてきた。
ボクは裏手に回るよう言って、シャッターを開ける。
今日の荷台にはガーネットの代わりに大きな機械が乗っている。
トラックは荷台のアームを器用に動かして、機械を持ち上げた。そのまま、シャッター越しに作業スペースへと運び込む。
「この辺でいいですかー?」
「とりあえずは」
数日前に連絡があった新しい真空凍結炉が届いたのだ。古い真空凍結炉と交換してもらう。
「ちょっと、おおきくない?」
「こんなモノですよー」
いや、どう見ても今の倍くらいはある。並べると大きさが際立つ。
なんでも、この新型の真空凍結炉は酸性度がマイナスの超酸の液体が作れるらしい。泉の中和作業の効率が格段にアップするというプロジェクト肝いりの最新機器だ。
「古いモノは回収しますねー」
アームは、今までお世話になった真空凍結炉を持ち上げると、トラックの荷台へと乗せた。
「新しいモノの場所調整はしますかー?」
「おねがい。もっとこっちがいい」
「了解ですー」
長く伸びたアームが、新しい真空凍結炉をあるべき位置に据える。
「なんか逆に……狭くなりましたね」
バイクもその大きさに呆れている。
ボクは、一緒に届いた新しい水筒を手に取る。超酸にも耐えられる特別な水筒で、こちらも沢山の量が運べるようにゴツくなっている。
先日新調したばかりの銀色の水筒を棚に片付ける。
「あと、今までの水筒とリトマス液も回収しますー。他に要らないモノがあれば、まとめて持って行きますよー」
「え、リトマスも?」
「はいー。今回のモノは酸性度の検査も同時にできるので、リトマス液も回収します」
あの赤色に染まる瞬間が好きだったのに。
「つまんないな」
「仕事が一つ減るんだから良いじゃないですか」
ボクの愚痴をバイクが窘める。
便利になるってことは、つまらなくなるってことなのかな。
「ほら、水筒も持って行ってもらいましょう。取っておいても仕方ないし」
それはそうだけど。買ったばかりなんだよ。まだ二回しか使っていないし。
「ついでに、前のラジオや、使えないのに買った気熱発電機も捨ててもらったらどうです?」
確かに気熱発電機は要らない。
でも、ラジオは残しておきたい。アンティークラジオが壊れたら部品が流用できるかもしれない。
「なにかに、つかうかも……」
「使いませんよ、捨てましょう。断捨離です。断捨離っ」
バイクが活き活きしてきた。
まさか、バイクがそういうタイプだとは思わなかった。
「不用品があれば、ついでに回収しますよー。どうしましょうー?」
トラックがアームをくいくいと動かす。
バイクが調子に乗り始めた。
「熊手の残骸も断捨離しましょう」
棒として何かに使えるかもしれないから取っておいたのに。
「ほら、あのオイルライターも」
「むぅ…」
「研磨機はもう要らないですね」
「ぬぅ?」
研磨機はバイクのボディを磨いたり、サティの髪留めを磨くのに使ってたやつだ。
今ではバイクの整備はプロがやってくれるから、彼女にとってはもう要らないんだ。
「どうせ使わない物ばっかりなんですから、これを機に断捨離です」
「しかし……」
「機械が大きいんですから、スペースを確保しないと」
バイクの言うとおりだ。確かに言うとおりではある。
「でも……」
「断捨離!」
ボクは断腸の思いで棚を整理した。
まあ、作業スペースが広くなったから良しとしようか。




