3 Nov. 25「あしたのこと」
3 Nov. 25 -4×4砂漠-
空に輝く星々の中で、特に火星が赤く煌めいている。
砂漠は凪いでいて、バイクの「るるるる」という音だけが響く。
今日は週に一度のワームの調査の日。
バイクはずっと不機嫌だ。
「私、嫌いなんです。あのウネウネして気色悪いのが」
そんな文句をブツブツ言いながらも、彼女はちゃんと目的地まで連れて行ってくれる。
ワームの巣はすぐに見つかった。砂地がすり鉢状に落ち込んでいる。まるで巨大なアリジゴクの巣。
ボクたちはここをコンポストと呼んでいる。
「ここでとまって」
コンポストを真ん中で見下ろせる場所。
バイクは渋々と空中で静止する。
「早くしてくださいよ。この下には、大量のウネウネが……」
バイクの独り言を聞き流し、ボクはいつものように作業を続行する。
小さな鞄から長い釣竿を取り出して、丈夫な鋼線を通す。針の代わりに小型のスキャナを括りつけると、彼女に乗ったままコンポストの中央へと垂らす。
スキャナはゆっくりと砂の中へ沈んでいく。
これがコンポストの中にいるワームたちを、ひとつひとつ数え上げてくれる。
「ひゃあああ!」
バイクが叫んで震える。
一匹のワームが砂から顔を出したのだ。
ワームは大きなミミズだ。彼らはプラスチックを食べて分解する。
少しずつだが灰色の砂漠を減らしてくれる、とても大事な存在。
だから数を増やすために管理をしている。ボクは毎週ワームの数を数えて報告をする。
見えたのは、数メートルのPPワームだ。そんなに驚くほどの大きさじゃない。
種類によっては百メートルを超えるワームだっている。
「ちょっと、ゆらさないで」
慌ててグリップを掴む。
バイクは「すみません」と謝るけれど、細かい振動は続く。
ワームは大人しい生き物なんだから、いい加減に慣れてくれても良いのに。
彼女ご自慢のカウルもプラスチックだから、食べられちゃうとか思っているのかな。
仕方ないから、今日は早めに切り上げることにして、釣竿を巻き上げていく。
「ん?」
少し重いなと思ったら、スキャナに一匹のワームが巻き付いていた。
一瞬の静寂の後。
「ぎゃあああああああ!!」
黒い空を切り裂くようなバイクの悲鳴。
一気に高度が上がる。
「おちついて」
「いぃぃぃぃやあぁぁぁぁ!」
ボクは釣竿をすり鉢の縁に向かって放り投げた。
「ほら、もうワームはいないからっ」
彼女は何度かの急上昇と降下を繰り返して、コンポストから離れた所に軟着陸する。
「ここでまってて」
「は、はい」
ボクは釣竿を回収するために、十五分ほど砂漠を歩く羽目になった。
スキャナを確認すると、ワームの数は大小合わせて三百程度。もう少しいるはずだけど、今日はこれ以上の調査は無理だ。
ボクはノートに種類ごとの数を書き留めた。
そんな必要はないけれど、このノートに今までのワームの数を書き残している。
コンパスを手にバイクの所に戻ると、バイクはまだ震えていた。
ボクが彼女に跨っても、動いてくれない。
「さあ、かえろう」
「まだ怖くて……」
「あした、コロニーへいくんだけど」
ボクがそう言うと、バイクの声のトーンが一段階上がった。
「本当ですか!?」
「うん」
「じゃあ、すぐに帰りましょう」
「だいじょうぶ?」
「問題ありません!」
まあ、彼女が問題ないというんだから、きっと大丈夫なんだろう。
バイクは空へと舞い上がり、素晴らしいスピードで駆け始めた。
ボクは眼下を過ぎていくコンポストを見つめながら、ちょっとだけ呆れた。
砂漠に少し風が戻ってきて、斜面をサラサラと砂が流れていった。




