28 Oct. 14024「君がいれば」
28 Oct. 24 -ニライカナイコロニー-
ボクは鼻歌交じりでバイクを押して進む。コロニーの外に出るための最後のエアロックに入る。
「ご機嫌ですね。良い買い物でもできたんですか?」
「そうなんだよ」
バイクが聞いてくるので、ついつい自慢してしまう。
骨董品店で手に入れたのはアンティークのラジオ。かなり古いもので、店主によるとコロニーができる前の品らしい。
念願だったラジオを手に入れることができて、ボクはウキウキしていた。
「私より古いですが、給電は大丈夫なんですか?」
バイクがいろいろと心配してくれる。
もちろん、このラジオにはバッテリーなんてない。ワイヤレス充電もできない。
でも、うちには夜光発電機があるから、それと繋げればちゃんと動くはず。
「なんとかするよ」
「楽しんでいますね」
バイクが家に来てから一年。彼女は家での生活にしっかり馴染んでいる。
日課を手伝ってくれるようになったから、ボクには余暇の時間が増えた。
おかげで、こうやって古い機械をいじって遊ぶ余裕もできた。
「きみのおかげだよ。ありがとう」
そう言うと、バイクが恐縮したような声を出す。
「改めて、お礼を言わせてください」
「どうしたの?」
最後のエアロックが開くまで、残り三分ほど。
「あんな暗くて孤独で、ワームなんかが這いずる所から、助けてもらったのですから」
建物から出られたのは、バイクがいたからだ。あのまま一人だったら、ボクも充電切れで動けなくなっていたに違いない。
「おたがいさまだよ」
「それに、言葉遣いもあの時故障したままじゃないですか。申し訳なくて……」
ボクは腕の修理に合わせて、他の部品も新しいのに交換してもらった。
だけど、新しい部品と発話機能のソフトウエアの相性が悪くて、この話し方が固定してしまった。
「ボクもふるいアンドロイドだから、しょうがない」
ハードウェアとソフトウェア同士の相性の悪さなんて、どうやっても起きてしまう。
ボクたちみたいに千年単位で稼働している機械なら、なおさらだ。
ボクはちょっと話を逸らす。
「ワームはきらい?」
「真っ暗闇の中で、すぐ側をズリズリと這われた時なんか、絶望しました。トラウマです」
バイクはライトを下に向ける。ボクは苦笑した。
こんな風に会話できる相手ができたことが、とても嬉しかった。
「ボクこそ助けてもらってるよ」
何より、ボクも一人で寂しかったんだ。バイクが家に来てから、以前よりも仕事を楽しんでできるようになった。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」
バイクとボクは、お礼を言い合った。
ちょうどエアロックが開く。ここから先は凍てつく外の世界。
冷たい空気に晒され、バイクのサーモスタットが「るるるる」と音を立て始めた。
「さあ、かえろうか」
ボクがバイクに跨ると、星空へ向かって飛び上がる。
雲一つない空には満天の星々が煌めいている。白いリゲルと赤いベテルギウスが三ツ星を挟んで並んでいる。
眼下には広大な灰色のプラスチックの砂漠。
砂の下には大きな都市が隠れている。
風が吹いて砂山が動き、深い青色の泉が姿を現す。
後ろを振り向くと、コロニーの大きなドームとパラボラアンテナ。
コロニーは人の営みに合わせて暖かく光り、頑丈な造りで命を守っている。パラボラはコロニーのそばで受電の時を静かに待っている。
こんな風になってしまった地球だけど、ボクは美しいと感じた。
今日は月が出ていない。
ラジオが聴けるのは明日になりそうだ。
ボクはまた鼻歌に興じる。
それに合わせて、バイクはいつもよりゆっくりと飛んでいく。




