27 Oct. 14023「Come to me」
「でも、だいじょうぶだよ。たすけをよぶから」
いざとなったら救難信号を出せば良い。
ただ、鉄筋コンクリートで囲まれた建物の中からだと、信号の電波が弱くなってしまう。
天井の穴から外に出られれば……せめて穴の真下で信号を出さないといけない。
確実なのは、穴から出ることだ。
コンクリートの塊や植木鉢を積み上げて、なんとか登れないだろうか。
エラーの鳴り響く頭で、一生懸命に考える。
「ここで、ちょっとまってて」
ボクは道具を集めるために、立ち上がる。
「お願いです、一人にしないでください。もう一人は怖いんです」
バイクは震える声で懇願する。
ずっと一人で心細かったんだろうな。
何とか励ましてあげなきゃ。
「ここからでられたらさ、うちへおいでよ」
ボクもどうしてそんな提案をしたのか分からない。エラーのせいか、それとも……。
「え、良いんですか?」
「もちろん」
彼女は少し元気が出たようだ。
「ぜひとも、お願いします」
とりあえず、穴の下まで一緒に行くことにした。
でも、バイクを押そうとしても、タイヤがないから動かせない。
「ん…! よいしょ」
なんとか抱え上げてみるけど、かなり大変。
「大丈夫ですか、重くないですか?」
「ん……もんだいないよ」
左腕がさらに曲がってしまう。
そうだ。家に帰れたら、キャスターを付けてあげよう。きっと押すのが楽になる。
と、現実逃避的なことを考えつつ、何とか穴の下まで運んできた。
「ふぅ。あとは、どうやってあそこまでのぼるか……」
「モーターが動けば、私は浮けます」
早く言ってよね。
それなら苦労してここまで運ぶ必要なかった。キャスターなんて要らないじゃん。
そう言いたい気持ちをボクは我慢する。
「じゃあ、おねがい」
「バッテリー残量が足りません」
「こんなにしゃべってるのに?」
とても長い間、彼女の身の上話を聞かされていた。彼女はずーっと喋り続けていた。それなのに?
「話すのと浮くのでは消費電力が桁違いです。あと、久しぶりに話しすぎて、もう残量がわずかです」
こういう非常事態には電力をセーブしてよね……とは言えない。
「しかたない、きみのレシーバーはどこ?」
ボクは自分にワイヤレス充電チャージャーを接続する。
「ここです。周波数を八十五キロヘルツにお願いします」
「これでどうかな」
ボクと彼女では端子の規格が違うから、有線で充電させることができない。ワイヤレス充電なら、なんとかなるはず。
ボクに繋いだチャージャーを、バイクのレシーバーに当てる。
「充電できてます。とてもいい感じです」
「モーターはどう?」
「やってみます」
ブーンと唸るような音がする。が、モーターが回る音ではない。
「すみません、動かないです」
「あたためたりできる?」
「やってみます」
千年近く動かさなかったモーターだ。動けば奇跡なのかもしれない。
しかも気温は氷点下。建物の内部は外よりマシだけど、それでも凍りついてしまう温度だ。
ボクは、予備の電力を全て彼女に託した。ボクにはもう半日分しか残っていない。
パチンパチンと弾ける音に続いて、今度はブブブーンと少し揺らぐような音。
もう少しでモーターが回りそう。
「でんあつあげてみて」
「はい!」
キュルキュルと古いモーターが回転を始める。
「飛べます!」
ボクはすぐさまバイクに跨る。
バイクはゆっくり上昇し始めた。
「私、飛んでる!」
彼女の歓喜の声とともに、天井の穴を抜けて外に出ることができた。
「やったね」
砂地に軟着陸すると、ボクとバイクは大喜びした。
「このまま、うちまでとんでってよ」
「整備をしてからでないと危険です。少し浮けますので、押して通行してください」
ボクは、彼女を家まで押して帰る羽目になった。
もう満身創痍、クタクタだ。




