26 Oct. 14023「sleeping beauty」
26 Oct. 23 -4×4砂漠-
中和の作業を終え、日が変わろうとする頃。
ボクは家に向かってプラスチックの砂漠を歩いていた。
ザザザッ ザザーッ
足元の砂が沈み込む。流砂だ。
上から見た砂時計のように砂が凹んでいく。
ブーツが自動で反重力装置の出力を上げるが、砂の流れの勢いでボクは体勢を崩し、ずぶずぶと飲まれていく。
……
「ん……」
どのくらいの時間が経ったのだろう。
ボクの頭の中では沢山のエラーが鳴り響き、正確な時刻も分からない。
見上げると、コンクリートの天井には穴。その向こうに星空が覗いている。
まだ穴からパラパラと砂が落ちてきているから、せいぜい数時間程度だろう。
足元には落ちた砂が溜まっている。きっと、砂漠の下に隠れていた建物に穴があいて、そこに砂が流れこんだのだろう。
穴までは結構な高さがある。
立ち上がろうとすると違和感。
左腕が崩れたコンクリートの塊にぶつかって、曲がっていた。
「うわ、うでがこわれてる」
発音もおかしい。落下の衝撃で発話機能も故障したみたいだ。
「まいったな……」
ここでは修理も再起動もできないから、とりあえずそのままにして立ち上がる。
穴の直下はわずかに明るくなっているが、周囲は真っ暗だ。
ボクはゴーグルを付けて辺りを見回す。このゴーグルは近赤外線を発していて、光の全くない場所でもよく見ることができる。
「なにか、のぼれそうなものをさがさないと」
ハシゴでもないかな、と考えながら歩き回る。
空の植木鉢。
粉々に砕けた蛍光灯。
脚の折れた椅子のフレーム。
特に目ぼしいものはない。
錆び付いた防火扉の向こうも見てみる。
そこには、埃をかぶった一台のバイクが停まっていた。
一人乗りの飛行バイク。かなり古い型で見た目はゴテゴテとしている。
お世辞にも洗練されたとは言えない武骨なフォルムは……実にボク好みだ。
「かっこいい!」
思わず叫ぶ。
するとバイクが起動し、小さな音声を絞り出す。
「だ、れか…。……助けてください」
ボクはバイクに駆け寄った。
「どうしたの?」
「……捨てられたんです」
女の人の声だった。しかも泣いている。
これはちゃんと話を聞いてあげないといけない。
ボクは彼女の隣に腰掛けた。
「私は、とある探検家と一緒に旅をしていました」
バイクとその探検家は、様々な所を旅したらしい。
そして、この場所に辿り着いた。ボクの落ちた穴とは別の所から砂を掘り進めて入ったそうだ。
「彼は、私をここに置いたまま戻ってきませんでした」
千年くらい前に、個人で砂漠の下の都市を探検することが流行った。でも、遭難する人が多くて調査隊以外の外出は原則禁止された。
彼も遭難して、ここに戻って来れなかったのかもしれない。
「十年くらいまでは数えていたのですが……私はどのくらい眠っていたのでしょうか……」
おそらく千年は経っているはず。いきなりその真実を突きつけると彼女を傷付けてしまうかな。
それでも嘘を吐くことはできないから、事実だけを伝える。
「ごめん。ボクもエラーで、じかんがわからないんだ」
やっぱり上手く喋れない。
「そうですか」
彼女の声がトーンダウンする。
「お願いです。私をこの場所から助け出してもらえませんか」
「ごめん。ボクもここにおちてきちゃって、でぐちをさがしてるんだ」
千年前と比べれば、ワームのおかげでプラスチックの砂の量は減ったはず。しかし、強い風で他の場所から運ばれてくるプラスチックもあって、まだ高層建築を覆い隠すほどの砂の量が積もっている。
彼女が入ってきた場所も、砂で埋まってしまったに違いない。
「そうですか……」
彼女の声がさらに消沈してしまう。
なんとか励ましてあげないと。




